免疫細胞治療の種類について
当院の免疫細胞治療(免疫療法・免疫細胞療法)には、使う細胞の種類や、培養方法の違いにより、いくつかの種類があります。
以下、それぞれの治療がどのような治療なのか、また、患者さんによってどうやって使い分けるかをご説明します。
免疫細胞治療の種類
免疫細胞治療にはいくつかの種類がありますが、大きく分けて、以下の二種類があります。
これを踏まえて、それぞれの治療法を見ていきましょう。
まずは“がん攻撃の「司令塔」細胞を教育する治療法”です。
樹状細胞ワクチン
樹状細胞は、がん細胞を直接攻撃するT細胞に、がんの目印(がん抗原)を伝え、攻撃の指示を与える免疫細胞です。この樹状細胞に体外でがん抗原を取り込ませてから(教育してから)体内へ戻し、T細胞にがんを攻撃するよう指示させます。
次はがん攻撃の「攻撃部隊」細胞を増殖・強化する治療法です。
NKT細胞療法
NKT細胞とは、NK細胞とT細胞の性質を合わせ持つリンパ球の一種であり、がん細胞を制御する多種多様なはたらきがあることが知られていますが、白血球中にはわずか0.1%程度しか存在しません。
当院のNKT細胞療法は、NKT細胞が樹状細胞を介してα-ガラクトシルセラミドという糖脂質を示されると活性化するしくみを利用し、α-ガラクトシルセラミドで処理した樹状細胞を用いて、患者さんの体内でNKT細胞を活性化・増殖させることを期待した治療です。
アルファ・ベータT細胞療法
がんに対する攻撃力が最も強い細胞のひとつであるT細胞を全般的に活性化し、増殖させてから体内へ戻す治療法です。T細胞の多くが、アルファ・ベータT細胞という種類なので、この名前がついています。特定のがん抗原に頼るわけではありませんので、がん細胞の目印が分からない時、がん細胞が目印を隠している場合に、早期がんから進行したケースまで幅広く適用されます。
がん患者さんでは、免疫の働きにブレーキがかかっていることも多いのですが、そのブレーキを外す働きもあることが分かっています。また、化学療法や放射線療法の効果を増すことも期待されます。
2DG・キラーT細胞療法
2-デオキシグルコース(以下「2-DG」)という糖の仲間を加えて細胞培養することで、従来のアルファ・ベータ(αβ)T細胞療法より様々な機能を高めた治療法です。従来のαβT細胞療法で得られる T 細胞と比較して、がん細胞を攻撃する機能が向上し、さらにがん細胞による免疫抑制を回避できるため、従来のαβT細胞療法の改良版として、がんに対する免疫細胞治療の効果の向上が期待されます。
ガンマ・デルタT細胞療法
ガンマ・デルタT細胞療法とは、がん細胞を攻撃する力を持つ免疫細胞(リンパ球)のうち「ガンマ・デルタT細胞」を用いた免疫細胞治療です。
肺がんや多発性骨髄腫をはじめ、様々ながん種を対象に、大学病院等で臨床研究が実施されており、さらにその成果が論文として発表されるなど、期待される治療法の一つです。
ガンマ・デルタT細胞には、細菌やウイルスなどに感染した細胞やがん化をはじめた細胞の変化を素早く感知して攻撃をしかけるといった特徴があり、以前から注目されていました。T細胞の中でもわずか数%しか存在せず、培養が難しい細胞のため治療に用いることが困難とされていましたが、ガンマ・デルタT細胞の安定的な大量培養が可能となったのを受け、治療を実施しています。
抗体医薬を使っている場合や、骨腫瘍・骨転移などの治療にゾレドロン酸を使っている場合、併用することで相乗効果を期待できます。
NK細胞療法
NK(ナチュラルキラー)細胞は、末梢血中のリンパ球の10~20%を占める、極めて強い細胞殺傷能力を持った細胞の一種で、身体の中を常時パトロールし、がん細胞やウイルス感染細胞などの異常な細胞をいち早く発見して攻撃する、初動部隊です。
NK細胞療法は、患者さん自身のNK細胞を体外に取り出し、高度に安全管理された環境下で大幅に増殖・活性化して体内に投与します(治療開始前の患者さんの免疫状態等により、NK細胞の増殖度合いは異なります)。
どのようにして治療を選ぶか
では、このように複数ある治療を、どのようにして使い分けるのでしょうか? 原則として、以下三つの観点から慎重に検討し、最適と思われる治療を提案します。
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がん細胞の状態を
検査 -
免疫細胞の状態を
検査 -
現在の患者さんのご状況(身体の状態、現在受けられている治療、治療に対するお考え、経済的状況等)
「免疫細胞治療とは」でも説明したように、免疫は、様々な種類の免疫細胞が複雑なシステムを形作って互いに協力しながら敵を排除します。
どの免疫細胞を使った治療が必要となるかは、患者さん一人ひとりのがん細胞の性質、免疫の状態に応じて異なるため、治療に用いる各種の免疫細胞を取捨選択する必要があります。
個々の患者さんに最も向いた治療法を選ぶため、当院では、治療を開始する前に患者さんの免疫の状態を網羅的に検査しています。また、もしがん組織が手に入る場合は、それを検査して、がんの状態も把握しています。
特異的免疫と、非特異的免疫
がんは、たとえるなら、体内に反乱軍が大量にいるような状態です。
もし、反乱軍が「自分たちは反乱軍だ」という共通の旗印を掲げているような時は、鎮圧部隊がその旗印を目印として攻撃でき、効率良く反乱軍を攻撃できます。このように、がん細胞だけにある目印(がん抗原)を攻撃の対象とする免疫作用を、少し難しい言葉で(抗原)特異的免疫と呼びます。
一方で、反乱軍が「自分たちは反乱軍だ」という旗印を隠してしまい、一般市民の中に紛れ込んでしまっている場合はどうでしょうか。鎮圧部隊は、明確な旗印がなくとも、“こいつは怪しい”と思うような相手を見つけたら片っ端からやっつけるというように、対応していく必要があります。このように、一つの旗印に頼るのではなく、怪しい相手に幅広く働く免疫を、やはり少し難しい言葉で非特異的免疫と呼びます。
特異的、非特異的どちらも、いくつかの免疫細胞治療があります。当院の治療で言えば、特異的免疫応答を利用するのが樹状細胞ワクチンで、非特異的免疫応答を利用するのがそれ以外のアルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法、NK療法です。
そのどれを使うべきかは、患者さん一人ひとりのがん細胞の性質や、患者さん一人ひとりの免疫の状態によって変わります。よって、上記のような治療前検査が重要になってきます。