胃がんの一種であるスキルス胃がんは、一般的な胃がんよりも早期に発見されにくい、難治性のがんといわれています。
本記事ではスキルス胃がんの概要やスキルス胃がんの原因、なりやすい人の特徴、症状、治療方法を解説します。スキルス胃がんは胃がんになる割合が低い女性や若い世代の人でもなる可能性があるので、性別や世代を問わず注意が必要です。ぜひ本記事を参考にしてみてください。
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スキルス胃がんとは?スキルス胃がんの特徴
胃がんは日本の部位別がん罹患割合で男性、女性ともに第4位となっており(※1)、胃がんのうち14.3〜16%程度はスキルス胃がんという研究での報告もあります(※2)。スキルス胃がんの「スキルス」は、ギリシャ語で硬い腫瘍という意味を持つ「skirrhos」という言葉が由来です。
スキルス胃がんは内視鏡検査で確認できる箇所に病変ができないことから、早期発見が難しいがんだといわれています。発見した時点で転移がみられるとの報告もあり、かなり進行しているケースもみられます。
またスキルス胃がんは若い世代の人であっても、発症するリスクがあるがんです。一般的な胃がんは喫煙習慣がある人が多い男性や、ピロリ菌を保有している高齢の人などが発症しやすい傾向にあり、50代頃から発症する人が増え、発症年齢のピークは80代とされています(※3)。
しかしスキルス胃がんは、女性や20代でも発症しているケースがあります。先ほど胃がんのうちスキルス胃がんが占める割合は14.3〜16%程度とお話ししましたが、特に女性は男性と比べて一般的な胃がんの罹患率が男性ほど高くないことから、女性の胃がんの中でスキルス胃がんが占める割合は比較的高いのが特徴です。
※1参考:公益財団法人 日本対がん協会. 「がんの部位別統計」.https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_knowledge/,(参照 2024-06-30).
※2参考:J-STAGE. 「胃集検発見スキルス胃癌について」.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsgcs1982/1989/83/1989_109/_pdf,(参照 2024-06-30).
※3参考:国立がん研究センター. 「胃」.https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/5_stomach.html,(参照 2024-06-30).
1. スキルス胃がんの特徴
スキルス胃がんは、胃壁の内部でがん細胞が広がっていき、名前の由来の通り胃壁を硬く厚くさせながら進行するのが特徴です。一般的な胃がんは胃壁の内側の粘膜表面の細胞ががん細胞へと変異し、増殖することで発生しますが、スキルス胃がんの場合、胃壁の表面に病変がみられないため、早期発見が難しいとされています。
また進行すると腹膜播種(ふくまくはしゅ)ができることもスキルス胃がんの特徴です。腹膜播種とはがん細胞が胃壁など臓器の壁を突き破り、体内に種を蒔くようにお腹の中に広がった状態です。スキルス胃がんの初期は胃壁の内部でがん細胞が広がっていきますが、進行すると腫瘍が胃壁を突き破り、さらに腹腔内に散らばってしまいます。
一般的な胃がんのように一箇所に病変がある場合、手術療法で切除できますが、広範囲に腫瘍が広がった腹膜播種は、手術療法による根治的な治療ができません。がん治療の技術は年々進化していますが、このような特徴を持つスキルス胃がんは、難治性のがんだとされています。
2. スキルス胃がんの検査方法
前述した通り、一般的な胃がんであれば内視鏡検査で比較的早期に病変を発見でき、場合によってはX線検査での発見も可能です。
スキルス胃がんは内視鏡検査で病変を見つけるのは難しいですが、進行すると胃粘膜のひだが肥大したり、本来のなめらかさがなくなったりするため、内視鏡検査で発見できることもあります。またスキルス胃がんが進行すると、胃壁が硬くなることから、健康な状態よりも胃の伸縮性がなくなってしまうことが多いです。胃の伸縮具合いからスキルス胃がんの可能性を見極めるために、胃に空気を入れて検査が行われることもあります。
内視鏡検査などでスキルス胃がんの疑いが認められた場合は、生検を行って確定診断が行われます。スキルス胃がんの場合、一般的な胃がんよりも深部にがん細胞が発生していることが多いので、同じ箇所に何度も鉗子(かんし)を入れて深部の細胞を採取する、ボーリング生検が行われることが多いです。またCT検査やPET-CT検査で転移を確認するための画像診断が行われることもあります。
スキルス胃がんがかなり進行すると腹膜播種ができますが、それほど進行していない場合、画像診断では腹膜播種は確認できません。開腹手術を行った際に腹膜播種が確認されるケースも多いですが、お腹に開けたごく小さな穴から腹腔鏡を入れ、お腹の内部を確認する審査腹腔鏡が行われることもあります。
3. スキルス胃がんの別名
スキルス胃がんという言葉はそれなりに浸透していますが、スキルス胃がんという言葉は胃壁が硬く厚くなったがんのことを指す俗称です。スキルス胃がんにはいくつかの呼び方があります。
(1)4型胃がん・びまん浸潤型
胃がんの型は大きく分けると以下の6つです。
- 0型(表在型):軽度の隆起・陥没が認められる程度
- 1型(腫瘤型):目に見えて隆起しており、周辺組織との境目がはっきり分かる
- 2型(潰瘍限局型):潰瘍ができて周囲の胃壁に厚みが出ており、周辺組織との境目がある程度はっきりしている
- 3型(潰瘍浸潤型):潰瘍ができて周囲の胃壁に厚みが出ているが、周辺組織との境目が分かりにくい
- 4型(びまん浸潤型):目立つ隆起や潰瘍は認められず、周辺組織との境目が不明瞭で、胃壁が硬く厚くなっていく
- 5型(分類不能):0〜4型に分類できない状態
スキルス胃がんは、このうちの4型に該当することから「4型胃がん」「びまん浸潤型」と呼ばれることがあります。ただし4型胃がん・びまん浸潤型にはスキルス胃がん以外の胃がんも含まれます。
(2)Linitis Plastica(LP)型胃がん
スキルス胃がんは、比較的新しい概念です。スキルス胃がんという概念が生まれる前は、胃壁が硬く厚くなるのは炎症性疾患が原因と考えられており、Linitis Plastica(LP)と呼ばれていました。20世紀前半にLinitis Plasticaの病態が、胃壁の内部でがんが進行することによって引き起こされていることが分かってきたことから、Linitis plastica(LP)型胃がんと呼ばれることもあります。
スキルス胃がんの原因やなりやすい人とはどのような人?
スキルス胃がんの原因やなりやすい人の特徴を見ていきましょう。
1. 原因
実はスキルス胃がんの原因は、まだ特定されていません。
前述した通り、スキルス胃がんには一般的な胃がんとは異なる特徴があります。そのため、スキルス胃がんには特有の原因因子があるのではないかと研究が進められていますが、発症に関連する可能性がある遺伝子変異は発見されているものの、現在のところ明確な原因因子は特定されていません。
2. なりやすい人の特徴
明確な原因因子は特定されていないものの、スキルス胃がんは一般的な胃がんと同じようにいくつかの要因が組み合わさっているのではないかと考えられています。スキルス胃がんになりやすい人の特徴を見ていきましょう。
(1)ピロリ菌に感染している
ピロリ菌に感染している人は、スキルス胃がんになりやすいといわれています。
ピロリ菌は胃がんを引き起こす主な原因です。ピロリ菌に感染すると胃粘膜で慢性的に萎縮性胃炎が起き、その結果、胃がんを発症する可能性が高くなります。バリウム検査によってスキルス性胃がんが発見されたケースでも、ピロリ菌の感染が報告されたケースが複数あります。
(2)塩分の多い食事を好む
塩分の多い食事を好むことも、スキルス胃がんになりやすい人の特徴の一つです。
塩分が多い食品を多く食べていると胃への負担が多くなるため、その結果スキルス胃がんに関与するのではないかとされています。加工食品を多く食べている人、香辛料が大量に使われた食事を好む人も、同様にスキルス胃がんになるリスクが高くなってしまうでしょう。
(3)喫煙・飲酒習慣がある
喫煙・飲酒習慣がある人も、スキルス胃がんになる可能性が高いです。
一般的な胃がんの場合も、喫煙習慣や飲酒習慣が発症リスクを高めるとされています。タバコに含まれる有害物質、過度のアルコール摂取が胃にダメージを与えるため、スキルス胃がんになりやすくなってしまうでしょう。
(4)過度のストレスを抱えている
過度のストレスを抱えている人も、スキルス胃がんになりやすい人の特徴です。
ストレスを感じて胃が痛くなった経験がある人も多いのではないでしょうか。ストレスで胃が痛くなるのは過剰に分泌された胃液によって、胃壁がダメージを受けてしまうことが原因です。胃壁がダメージを受けると、スキルス胃がんになるリスクも高まってしまいます。
(5)身内にスキルス胃がんに罹患した人がいる
身内にスキルス胃がんに罹患した人がいることも、スキルス胃がんになりやすい人の特徴の一つです。
確定しているわけではありませんが、スキルス胃がんには遺伝的変異もあるのではないかと考えられています。身内にスキルス胃がんに罹患した人がいるのであれば、より意識的に検査を受け、日頃の食習慣や生活習慣にも気を付けることが大切です。
スキルス胃がんの症状
初期のスキルス胃がんの場合は、一般的な胃がんと似た症状が現れます。代表的な症状は以下の通りです。
- 食欲低下
- 体重減少
- お腹の不快感
- 下痢
- 胸焼け
- 消化不良
このような症状は「ただの体調不良かな?」と見過ごしてしまうケースも少なくありません。しかしこの段階で受診すれば早期発見できる可能性もあるので、「おかしいな」と思ったら、できるだけ早く病院を受診しましょう。ただし初期段階では無症状の人も多いです。
スキルス胃がんが進行すると、以下のような症状が現れるようになります。
- 胃痛
- 嘔吐
- 倦怠感
- タール便(黒色便)
- 吐血
- 下血
- 腹水
スキルス胃がんに罹患していてこのような症状が出ている場合、腹膜播種ができていたり転移が認められたりする可能性が高いです。
これらの症状は一般的な胃がんや胃炎や胃潰瘍といった病気でも現れることがありますが、何らかの異変が起きていることには変わりないので、すぐに病院を受診してください。
スキルス胃がんの治療方法
スキルス胃がんの主な治療方法をご紹介します。
1. 手術療法
スキルス胃がんが胃にとどまっていて、切除が可能な場合は手術療法が行われることがあります。手術療法の代表的な方法は、開腹手術・腹腔鏡手術・ロボット支援下腹腔鏡下手術などです。
開腹手術はお腹を切開し、目視でがんを確認しながら切除する手術です。病変を直接確認しながら切除できますが、体への負担が大きく、回復に時間がかかりやすい傾向にあります。
腹腔鏡手術はお腹に開けた小さな穴から内視鏡などを挿入し、モニターで確認しながら切除を行う手術です。大きく切開する必要がないため、体への負担に配慮できます。ロボット支援下腹腔鏡下手術は、ロボットによって腹腔鏡手術を行うものです。
ただし前述した通り、スキルス胃がんは発見時にすでに進行し、腹膜播種ができていたり他の臓器への転移がみられたりするケースが少なくなく、手術療法では対処できない可能性があります。全てのがん細胞を取り除けないのに手術療法を無理に行うと体力が低下し、さらに病状が悪化してしまうこともあります。
2. 抗がん剤治療
抗がん剤治療は、その名の通り抗がん剤を投与して行う治療のことです。化学療法とも呼ばれます。
現時点でスキルス胃がんに対しては、一般的な胃がんの抗がん剤治療で用いられる薬を使用します。投与方法は飲み薬・注射・点滴などです。手術療法ではがん細胞が取りきれない場合や、転移がみられる場合などに行われます。根治目的ではなく、延命を目的として行われる治療です。
抗がん剤治療は、強い副作用が現れる可能性があります。主な副作用は以下の通りです。
- 吐き気・嘔吐
- 食欲低下
- アレルギー反応
- 便秘
- 疲れやすさ
- 口内炎
- 感染症
- 痺れ
- 骨髄抑制
- 肝機能障害・腎障害・心機能障害
治療による負担がかなり大きくなる可能性があるので、負担と得られるメリットを比較し、抗がん剤治療を受けるかどうかを検討することが大切です。
3. 放射線治療
放射線治療はがん細胞に放射線を照射することで、細胞の遺伝子にダメージを与え、細胞を小さくする治療のことです。
スキルス胃がんの場合も根治を目的とするのではなく、手術療法の前に行うことで切除するがん細胞を小さくしたり、術後に行うことで残った病変を小さくしたりする目的で用いられます。また手術が難しい場合、症状の緩和を目的として行われることもあります。
4. 免疫療法
免疫療法は、人が元々持っている免疫細胞のはたらきを応用したがん治療方法です。免疫細胞は異物から体を守り、侵入した異物を排除するはたらきを持ちます。免疫療法ではこの力を使って、免疫細胞にがん細胞を攻撃させたり細胞の増殖を抑えたりして、がんの治療を行います。
全身に転移したがんや再発したがんにも適応できる治療で、正常な細胞も攻撃してしまう抗がん剤治療と比較すると副作用が少ない傾向にあるのが特徴です。ただし副作用が全く出ないわけではありません。
代表的な免疫療法の種類は以下の通りです。
- 免疫チェックポイント阻害剤
- 免疫細胞治療
がん細胞は免疫細胞からの攻撃をブロックするバリアを作ります。「免疫チェックポイント阻害剤」は、そのバリアを解除させる治療です。免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようになるため、治療効果が期待できます。
「免疫細胞治療」は、患者さんの体内から取り出した免疫細胞を体外で増殖させたり何らかの機能を付与したりした後、体内に戻す治療です。免疫細胞を増やしたり、機能を与えたりすることで、がん細胞への攻撃力を高められます。
スキルス胃がんの早期発見には定期検診が重要
本記事ではスキルス胃がんの概要やスキルス胃がんの原因、なりやすい人の特徴、症状、治療方法について解説しました。病変を発見しづらく初期症状が出ないこともあるスキルス胃がんは、発見時に進行しているケースも少なくありません。早期発見が難しいとはいえ、定期的に検診を受け、何か異変があれば適切な治療を受けることが大切です。
スキルス胃がんの進行度合いによっては、手術での切除が難しい可能性もあります。治療の選択肢を増やしたいなら、免疫療法を検討するのも一つの方法です。がん免疫細胞治療専門の瀬田クリニック東京は、1999年から免疫療法を専門的に提供しています。一人ひとりに最適ながん免疫細胞治療をご提案しますので、お気軽にご相談ください。
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