骨肉腫とは、骨に発生するがんのうち、大きな割合を占める疾患です。
以前は不治の病とされていましたが、近年は治療法の進歩により、初診時に遠隔転移が認められないケースでは5年生存率が70%を超えています(※)。
本記事では骨肉腫の原因と特徴、進行、主な治療法について解説します。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
骨肉腫の原因と特徴
骨肉腫は、骨にできるがんのうち、最初から骨に発生する原発性悪性腫瘍の一種です。
日本では年間100万人あたり1~1.5人程度の割合で発生する希少がんで、約6割は10~20代の若年層ですが、一方で40代以上の患者さんも全体の約3割を占めています。男性・女性のどちらにも発症しますが、統計における男女比は1.5:1で、やや男性に多い傾向にあります(※)。
ここでは骨肉腫の原因および、がんの発生部位・症状といった主な特徴について説明します。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
1. 骨肉腫の原因
骨肉腫がなぜ発生するのか、その原因は今のところ明らかになっていません。遺伝的要素が強いと考えられていますが、原因となる特定の遺伝子異常が判明しておらず、詳細は不明です。
ただ近年の研究により、がん抑制遺伝子であるRb遺伝子や、p53遺伝子などを含む染色体に異常が発生し、その働きが失われることが骨肉腫のリスクを高めているのではないかと考えられています。また他臓器のがん治療の一環として放射線療法を行った際、正常な細胞が傷付いて起こる二次がんとして発症するケースもあります(※)。
具体的には、放射線治療によって骨が壊死する骨梗塞や、正常な骨が繊維組織や異常な骨組織によって置換される繊維性骨異形成などが起こった場合、二次がんとして骨肉腫が生じることもあります。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
2. 発生部位
骨肉腫は骨がある部位ならどこにでも発生する可能性がありますが、患者さんの約6割は大腿骨(太ももの骨)と脛骨の股関節側に発生します。次いで多いのが上腕骨(二の腕の骨)の肩に近い部分、および大腿骨の股関節に近い部分など、比較的骨が早く成長する部位に発生する傾向にあります(※)。
なお脊椎や骨盤に発生するケースもありますが、その場合は若年層よりも中高年者に多いという特徴があります。
※参考:国立がん研究センター.「骨肉腫〈小児〉について」.https://ganjoho.jp/public/cancer/osteosarcoma/print.html,(参照 2024-06-14).
3. 主な症状
骨肉腫になった場合の主な症状は以下の通りです。
(1)痛み
初期症状として、腫瘍が生じた部分に痛みを感じる場合がほとんどです。最初のうちは運動をしたときに痛む程度ですが、がんが進行すると日常動作や安静時にも痛みを覚えるようになり、ひどい場合は足を引きずって歩くこともあります。
痛みは数週間~数カ月程度続くこともあるため、骨の痛みが長く継続している場合は病院を受診しましょう。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
(2)腫れ・熱感
骨の痛みと同時に、患部に腫れや熱っぽさを感じることがあります。痛み同様、腫れ・熱感も数週間~数カ月にわたって持続します(※)。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
(3)骨折
病状が悪化すると骨がもろくなり、軽いつまずきや日常動作などでも容易に骨折しやすくなります。このように、病気が原因で骨が弱くなり、わずかな力で骨が折れてしまうことを病的骨折といいます(※)。痛みや腫れ、熱感で気付かなかった患者さんが、骨折を機に病院を受診し、骨肉腫を発見したというケースもあります。
ただ骨肉腫の場合、病的骨折が発生すると治療が難しくなることがあります。そのため、痛みや腫れ、熱感などその他の症状が生じた段階で病院を受診することが大切です。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
(4)呼吸障害
骨肉腫に罹患した患者さんの1~2割程度は、診断の時点で肺への転移が見つかるといわれています(※)。肺への転移に関しては無症状であるケースが多いですが、進行すると呼吸障害が起こることがあります。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
骨肉腫の進行
骨肉腫はかつて手術療法のみで治療されており、かつ90%弱が再発し、術後1年以内に肺転移するケースが多数を占めていました。そのため、5年生存率は5~10%とかなり低く、当時は不治の病とされていました。
ところが1970年代以降は、再発・進行する骨肉腫に対する化学療法の有効性が明らかになり、手術療法と化学療法を併用した治療が行われるようになりました。その結果、再発率は減少し、治癒率が向上したため、初診時に遠隔転移のない症例における現在の5年生存率は70~80%程度となっています。
ただし、初診時に遠隔転移が認められたケースや、治療後に再発・転移が発生した場合は依然として予後不良となっています。また、転移した病変を手術で完全に切除した場合、40%程度が長期生存するという報告があります。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
進行の度合いとステージ分類
骨肉腫の細胞は非常に増殖力が高く、周囲の正常な骨組織を侵食する形で広がっていきます。腫瘍が血管を形成すると、血液から得た栄養と酸素によって増殖力がさらに加速されます。
また骨を破壊する酵素を分泌し、骨をもろくさせる性質を持つのも骨肉腫の細胞の特徴です。骨が構造的にもろくなると、腫瘍の拡大も早くなるため、より進行スピードが速くなる傾向にあります。
具体的な進行スピードは、がんの遺伝的特徴や発生場所、治療への反応、患者さんの免疫や体質によって異なりますが、一般的に数週間~数カ月で急速に進行するといわれています。
なお骨肉腫のステージ(進行度)は、以下の通りです(※)。
ステージ | 特徴 | 転移の有無 |
---|---|---|
ⅠA | 発生部位は周囲組織を超えない。低悪性度 | なし |
ⅠB | 発生部位は周囲組織を超える。低悪性度 | なし |
ⅡA | 発生部位は周囲組織を超えない。高悪性度 | なし |
ⅡB | 発生部位は周囲組織を超える。高悪性度 | なし |
Ⅲ | 発生部位や悪性度によらない | あり |
ステージⅢは発生部位が周囲組織を超えているかいないか、悪性度が低いか高いかによらず、転移が認められれば該当となります。
※参考:日本整形外科学会.「軟部腫瘍診療ガイドライン2020」P23.https://www.joa.or.jp/topics/2019/files/guideline_2020.pdf,(参照 2024-06-14).
骨肉腫の治療法について解説
骨肉腫の主な治療法には、手術療法・薬物療法・放射線療法・免疫療法の4つがあります。
1. 手術療法
骨肉腫の手術は、周囲の正常な組織も含めて広範囲に切除する方法が基本です。
適切に施術が行われた場合、四肢を切断した場合とほぼ同等の治癒効果を得られるといわれています。実際、四肢に発生した骨肉腫において、患肢を温存できる割合は90%程度に達しているとされています(※)。
ただし、腫瘍が重要な神経や血管を巻き込んでいるケースでは、切断術を検討しなければならない場合もあります。
※参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-14).
2. 化学療法
手術前後に抗がん剤を投与し、再発や進行を抑える治療法です。現在の標準的な治療では、術前に2~3カ月程度薬物を投与した後に手術を行い、その後さらに数カ月にわたって薬物を投与します(※)。
※参考:国立がん研究センター.「骨肉腫〈小児〉について」.https://ganjoho.jp/public/cancer/osteosarcoma/print.html,(参照 2024-06-14).
3. 放射線療法
がんに放射線を照射し、細胞の分裂・増殖を抑えたり、死滅を促したりする治療法です。
骨肉腫は数あるがんの中でも放射線が効きにくい腫瘍であるため、一般的に放射線療法は採用されませんが、安全な手術療法が難しい場合や、再建が困難な手術を行う場合は、術前後に放射線療法を用いることもあります。
4. 免疫療法
免疫療法は、人の免疫機能を強化させることでがんを治療する方法のことです。
2018年に、免疫チェックポイント阻害薬に関する研究がノーベル生理学・医学賞を受賞したことが大きな転機となり、現在では新たながん治療法として採用されています(※)。特に注目すべきは治療時のリスク減で、切開を伴う手術療法や、副作用のリスクがある化学療法、放射線療法に比べると患者さんにかかる負担の軽減を目指せるところが特徴です。
※参考:京都大学.「本庶 佑特別教授 ノーベル生理学・医学賞 受賞特別鼎談」.https://www.kyoto-u.ac.jp/kurenai/201903/teidan/index.html,(参照 2024-06-14).
骨肉腫は適切な治療を施せば5年生存率70~80%
骨肉腫は、手術療法のみで治療していた時代には再発率が高く、5年生存率も5~10%と低い傾向にありました。しかし現在は化学療法などその他の治療法との組み合わせにより、5年生存率は70~80%まで向上しています。
ただ転移が起こると予後が悪化するので、早期発見・早期治療することが大切です。骨肉腫の治療法には手術療法や化学療法の他にも、放射線治療法や免疫療法などがあり、状況に応じて併用すればより高い治療効果を期待できるといわれています。そのため骨肉腫の治療は医師と相談の上、ご自分の病状に適した方法を選択することが大切です。
瀬田クリニック東京では、患者さん一人ひとりの免疫機能やがん細胞の免疫的特性を診断し、個別に適した治療を行う個別化がん免疫療法を実施しています。より自分に適したがん治療を選択することを希望される方は、ぜひ瀬田クリニック東京にご相談ください。