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がん患者さんに多い精神症状とは?がんと診断されたときの心の変化やストレスへの対処法を紹介

投稿日:2025年1月17日

更新日:2025年1月17日

がんの診断を受ければ誰でも大きな衝撃を受けます。その衝撃は次第に不安や落ち込みなどの感情に変化し、時間の経過とともに、前向きに病気を受け入れられるようになります。しかし中には、不安や落ち込みから適応障害やうつ病に発展する人もいるため注意が必要です。

本記事では、がん患者さんががんの診断を受けたときの精神状態の変化、がん患者さんに多い精神症状、心のケア方法を紹介します。

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がんと診断されたときの患者さんとご家族の心の変化

がんの診断を受けたとき、患者さんは大きな衝撃を受け、強いストレスを感じるのが一般的です。これらは心を守るための正常な反応であるものの、中には気分の落ち込みや不安感が長期間にわたり、回復しない人もいます。日常生活に支障を来すほどの精神症状に発展する場合、専門的な治療が必要です。

また、がん患者さんのご家族も大きな衝撃と感情の揺れを経験することが多いため、患者さんと同様にケアが求められる場合があります。

患者さんの心の変化

がんに罹った患者さんの心は「ショックを受け混乱する時期」「不安や落ち込みにかられる時期」「状況に適応し回復する時期」の3つの時期を経験するとされています。ここでは、それぞれの時期を便宜上、以下に分けて解説します。

  • ●ショック期
  • ●落ち込み期
  • ●再適応期

ショック期

がんの診断を受けたときに最初に迎えるのがショック期です。がんの宣告を受ければ、多くの人が強い衝撃を受け、気が動転するでしょう。

  • ●頭の中が真っ白になり、何も考えられないほどの衝撃を受ける
  • ●「がんのはずがない、何かの間違いだろう」と事実を否定する
  • ●「がんになったら何をしても無意味だ」と絶望に打ちひしがれる

ショック期には衝撃や混乱の他に、病気の否定や強い絶望が伴うこともあります。これらは強い衝撃から心を守るための正常な反応です。

落ち込み期

ショック期から少し経過し、今後について考え始め、漠然とした不安が心を占める時期が落ち込み期です。

  • ●「なぜ自分だけががんにならないといけないのか」と怒りが湧く
  • ●「がんになったのはストレスや健康管理の甘さが原因だ」と自分を責める
  • ●がんになったことで周囲と分かり合えない疎外感や孤独感に苛まれる
  • ●イライラする、落ち着かないなど強い不安感に襲われる
  • ●何も楽しめない、集中できないなどの落ち込み症状が強い

落ち込み期には胸が苦しくなる、眠れない、食欲がないなどの身体症状を伴うことがあります。日常生活に支障が出ることもあるものの、一時的であれば徐々に回復に向かいます。

再適応期

がんであることをある程度受け入れ、現実的な対処を検討し始めるのが再適応期です。

  • ●回復に向けがんの治療方法を調べる
  • ●治療に取り組めるよう仕事や家庭での役割を整理する

再適応期はがんになったことを悔やむのでなく、前向きに今できることや将来の見通しを立てる時期です。通常、がんの診断を受けてから2週間程度で再適応期を迎えるとされています(※)。

しかし2週間を過ぎても、日常生活に支障を来すほどの強い精神症状が続くこともあります。この場合、専門的な治療が必要です。

※参考:国立研究開発法人国立がん研究センター.「がんと心」.
https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc01.html ,(参照2024-10-17).

ご家族の心の変化

前述した通り、がんは患者さん本人だけでなく、ご家族にも大きな衝撃を与えます。精神的ストレスの程度は患者さんに匹敵するか、それ以上になることもあります。ご家族も以下のようなさまざまな心の変化が生じるのが一般的です。

  • ●「これからの生活はどうなるのだろう」と動揺し混乱する
  • ●「なぜ家族ががんになったのか」とやり場のない怒りを感じる
  • ●「がんになったのは自分のせいではないか」と自責の念が生まれる

他に、イライラや不眠、疲れやすさなどの身体症状を伴うこともあります。ご家族も精神症状が現れることがあるため注意が必要です。

がん患者さんに多く見られる精神症状

がんのストレスに心が適応できないと、以下のような精神症状が現れる恐れがあります。なお、がんの種類やステージは問わず、誰でもなる可能性があるため注意しましょう。

  • ●適応障害
  • ●うつ病
  • ●せん妄

これらの精神症状はがん患者さんの生活の質を低下させるだけでなく、自ら命を絶つ原因にもなり得ます(※)。また、ご家族の精神的負担の増加にもつながるため、適切な治療が必要です。

※参考:公益社団法人日本産婦人科医会.「(5)がん患者に頻度の高い精神症状(明智龍男)」.
https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%885%EF%BC%89%E3%81%8C%E3%82%93%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AB%E9%A0%BB%E5%BA%A6%E3%81%AE%E9%AB%98%E3%81%84%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%87%E7%8A%B6%EF%BC%88%E6%98%8E%E6%99%BA%E9%BE%8D%E7%94%B7%EF%BC%89/ ,(参照2024-10-17).

適応障害

適応障害とは、何らかの強いストレスに対処できず、日常生活に支障を来すことをいいます。ストレスの原因が特定できており、その原因に対して心身の過剰な反応が起きている状態です。

具体的な症状では以下があります。

感情:
憂うつな気分が続く、不安感が強くなる、緊張が続く、過剰に心配する、怒りっぽくなるなど。
肉体:
頭痛、吐き気、めまい、動悸、息苦しさ、食欲不振、睡眠障害、疲労感、集中力の低下、性欲減退など。
行動:
暴飲暴食、自動車などの無謀な運転、人間関係のトラブル、違法行為など。

これらの症状は適応障害ではない人でも現れることがあるものの、適応障害では家庭や仕事など、社会生活を続けられないほど過敏な状態になります。

がん患者さんの10~30%に適応障害が見られるとされ、精神症状の中でも特に多いものです(※)。

※参考:公益社団法人 日本精神神経学会.「明智龍男先生に「がん患者の精神的ケア」を訊く」.
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=42 ,(参照2024-10-17).

うつ病

うつ病は、適応障害の症状がさらに悪化し、抑うつ状態が強くなった状態です。重症度は軽症から中等症、重症まであり、症状が重いとコミュニケーションを取るのも困難になります。うつ病を発症すると、脳内の神経伝達機能が低下することから、心身にさまざまなトラブルが生じる可能性があります。

うつ病では適応障害と同様の症状だけでなく、以下の代表的な症状「憂うつ感」が現れる点が特徴です。

  • ●大好きなことをしても喜びや楽しみを感じない
  • ●うれしいことや良いことが起きても気分が晴れない

例えば、映画鑑賞が趣味の人であれば、以前は楽しめた映画を最後まで見続けられない、見ても疲労感が強く楽しいと思えないなどです。また、がんの症状が軽快に向かっても気分が晴れないなども憂うつ感の症状に該当します。

他に、無価値観や希死念慮、無感情、感情の制御ができないなども症状の一つです。なお、うつ病といっても、心の症状よりも体の症状(不眠など)が強く出る人もいます。

がん患者さんの5~10%がうつ病を経験するとされています(※)。

※参考:公益社団法人 日本精神神経学会.「明智龍男先生に「がん患者の精神的ケア」を訊く」.
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=42 ,(参照2024-10-17).

せん妄

せん妄とは、疾患や薬の副作用、入院・手術、加齢など体に何らかの負担がかかることで生じる、幻覚や妄想などの症状を指します。精神症状もあるものの、急性の脳機能不全の一つです。

具体的な症状では以下が挙げられます。

  • ●幻覚・妄想(いないはずの人が見える、事実とは異なる解釈をするなど)
  • ●睡眠リズムの障害(昼夜逆転、睡眠中の多動など)
  • ●見当識障害(現在の時間や今いる場所が分からなくなる)
  • ●記憶障害(最近のことが思い出せなくなる)
  • ●意識障害(意識がもうろうとする、ぼんやりとするなど)
  • ●気分の障害(興奮や錯乱、人格の変化など)

せん妄になると、安静を保てない、治療用の点滴チューブを抜いてしまうなどの理由から、がんの治療が進まないこともあります。

せん妄は誰にでも起こることがあるものの、がん患者さんでは発症率が高く、入院中のがん患者さんの17%に見られるとされています(※)。

※参考:がんナビ.「がん患者に多い「せん妄」を知ってほしい 適切なケアで改善が可
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/report/201909/562010.html ,(参照2024-10-17).

がん患者さんの精神症状に対するケア

がん患者さんの精神症状に対するケア方法は、原因が日常的なストレスに対するものか、それともうつ病やせん妄など病的なものかにより異なります。

ストレスのケア方法

まずは、現在の心の状態を自己診断で客観的に確認しましょう。厚生労働省では「簡易抑うつ症状尺度(QIDS -J)」を公表しています(※)。もし、診断が困難だったり、重症度が高かったりするときは、専門家に相談しましょう。

症状がそれほど重くない場合は、以下の方法を取り入れ日常のストレスを緩和するのがおすすめです。

  • ●自身のがんの正しい情報を集める
  • ●信頼できる家族や友人に現在の気持ちを打ち明ける
  • ●過去に困難を克服したときの方法を思い出す
  • ●リラックスできる方法を探す
  • ●がんになったことを責めずに向き合う
  • ●やるべきことに優先順位を付ける
  • ●患者会など参加する

なお、精神症状は悪化する場合もあるため、定期的に現在の状況を振り返ることが大切です。

※参考:厚生労働省.「うつ病チェック」.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/02.pdf ,(参照2024-10-17).

適応障害やうつ病のケア方法

適応障害やうつ病など病的な症状が現れているときは、専門家のケアを受けましょう。専門的なケアでは、以下の3つの方法が挙げられます。

  • ●除去可能な原因への対処
  • ●精神療法
  • ●薬物療法

原因があっても除去ができないときは、精神療法か薬物療法、またはその両方が選択されます。

除去可能な原因への対処

適応障害などの症状が除去可能な原因から生じているときは、その原因への対処を優先します。例えば、痛みが原因で強い抑うつ状態にあるときは、可能な範囲で症状の緩和を行います。

精神療法

精神療法では、カウンセリングやリラクセーション法により、症状のケアを行います。
カウンセリングは、専門のカウンセラーが患者さんの話を聞き、気持ちを整理したり、つらさを和らげたりするための方法です。また、リラクセーション法では体を意識的にリラックスさせ、心もリラックスした状態を作っていきます。

薬物療法

薬物療法では患者さんの症状に応じた薬を投与し、症状の緩和や改善を図ります。例えば、不眠には睡眠導入剤、強い不安感には抗不安薬、うつ症状には抗うつ薬などです。これらの薬は副作用も起きやすいため、体質や状態に合わせて使用します。

せん妄のケア方法

せん妄は適切なケアにより多くの場合改善します(※)。ケアの方法は、原因となっている身体的症状を治療する、また薬が原因のときは中止したり変更したりするなどです。必要に応じて抗精神病薬などが投与されることもあります。患者さんがリラックスできるよう、環境を整えることも治療の一つです。

せん妄の予防方法としては、適度な水分補給で脱水症を防止する、痛みがあれば我慢せず緩和する、昼間は運動して体内時計を整えるなどがあります。

※参考:国立がん研究センター.「せん妄とは」P1.
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/psychiatry/senmou.pdf ,(参照2024-10-17).

ご家族ができるがん患者さんの心のサポート

がん患者さんにとって、信頼できるご家族の存在そのものが心の支えになります。サポートをするときは、これまで通り接したり、がん患者さんの気持ちや意志を尊重したりしましょう。

これまで通り変わらず接する

まずは、これまでと変わらず、いつも通り接するよう意識しましょう。がんになったとたんに気を遣い過ぎると、かえって患者さんの疎外感や孤独感を強めることがあります。患者さんにとっては、信頼できる家族そのものが心の支えになります。

「サポートしよう」と頑張り過ぎるのではなく、いつもと変わらない態度で接することが大切です。

がん患者さんの気持ちを尊重する

普段の過ごし方やストレス発散方法など、がん患者さんの気持ちや意志の尊重も大切です。ご家族の中には、がんが治ってほしいとの強い気持ちから、「良い」と思うことを勧め過ぎてしまうことがあります。しかし、仮に良いことであっても、強要されればストレスになります。がん患者さんの気持ちを尊重することを大切にしましょう。

過度に励まさない

「頑張って!」などの励ましの言葉も、がん患者さんの性格や状態によっては逆効果になることがあります。がん患者さん自身ががんを克服しようと前向きなときは「頑張って」という言葉は励みになります。一方で、疲れ切っているときに「頑張って」と言われると、焦りや苛立ちにつながるかもしれません。励ましよりも共感が必要なときもあります。

必要なことはしっかり話し合う

がんについて話し合うことは、患者さんにもご家族にもストレスになるでしょう。しかし、必要な話し合いを避けていると、双方の気持ちを共有したり、状況を理解したりできません。がんの治療方法や、今後の生活のこと、患者さんに万が一のことがあったときの対応など、必要なことを話し合えば、がんと向き合う団結力を高められます。

がんの適切な情報を得る

がん治療専門クリニックの公式サイトや、病院のがん相談支援センターを活用し、ご家族自身が正しい情報を得るようにしましょう。治療方法や治療で使われる言葉の意味、病院情報を把握していれば治療時の心のゆとりにつながります。

また、がんの原因や治療方法などの情報の中には、不確かなものも含まれます。これらの情報にご家族が惑わされると、患者さんの不安を助長しかねません。真偽に迷ったときは、医療機関などの専門家に確認しましょう。

ご家族自身の心のケア

ご家族は患者さんを優先するあまり、自身の心のケアがおろそかになりがちです。多忙と精神的な負担により、気が付けばご家族自身が適応障害などの病気になることもあります。そのため、心をケアする時間を作り、病気が疑われるときは早めに専門家を頼ることが大切です。

ご家族自身の生活を大切にする

まずは、ご家族自身の生活を大切にしましょう。身を粉にして看病を続けていると、やがて心身が限界を迎え、共倒れとなる恐れがあります。患者さん本人が一番苦しんでいるからと、ご家族が仕事や趣味を我慢するのは良くありません。気分転換しながら、可能な限り今までと同じように生活しましょう。

信頼できる人に話を聞いてもらう

話を聞いてもらうことで、考えがまとまったり、気持ちが楽になったりします。ご家族自身も、信頼できる身近な人に積極的に話を聞いてもらいましょう。もし、家族ががんであることを身近な人に相談できないときは、担当医や看護師、患者会、カウンセラーに聞いてもらうのも良いでしょう。

現在の考えを紙にまとめる

不安や心配など、頭の中で考えていることは、一度紙に書き出すと整理できます。書き出した後はその不安にどのように対処できるか、不安が現実として起きる可能性はあるのか、などの情報も付け加えましょう。書いてまとめることで感情の整理がしやすくなります。

がん以外のことを考える時間を作る

仕事や家事に打ち込む、趣味の時間を確保する、運動するなど、がん以外のことを考える時間を作りましょう。一日中がんのことを考えていては、心身が休まりません。患者さんや病気から離れ、自分の時間を確保すれば、リラックスしたり、自分の気持ちを見つめ直したりできます。

精神症状があれば専門家に相談する

眠れない、不安感が強いなど、日常生活に支障を来す精神症状があるときは、迷わず精神の専門家に相談しましょう。がん患者さんのご家族は「第二の患者」といわれるほど、心に大きな負担がかかります。ご家族の10~50%に不安や抑うつがあるともされているため、「自分が頑張らなければ」と無理をせず、つらいときは専門家を頼ることが大切です(※)。

※参考:がんナビ.「ちゃんと眠れていますか? 孤独感を誰かに打ち明けられていますか?」.
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/report/200812/100252.html,(参照2024-10-17).

がんになったら精神症状の変化にも注意しよう

がんの宣告を受けると、誰でも大きな衝撃が走ります。がん患者さんやご家族の多くは、不安や落ち込みなどの気持ちの変化が見られ、中には適応障害やうつ病などに悪化する人もいるため注意が必要です。

なお、がんに伴う精神症状は、痛みや副作用が原因のこともあります。そのため、患者さんの負担が少ない治療方法の検討も大切です。

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