骨のがん(癌)とは、その名の通り、骨に発生するがんのことです。骨のがんには、他の臓器に発生したがんが骨に転移する場合と、骨自体にがんが発生する場合の2パターンがあります。骨のがんは症状だけで診断するのは難しいといわれているため、専門医を受診し、検査を受けることが大切です。
本記事では骨のがんについての概要や主な症状、転移、検査、治療法について解説します。
骨のがんについて
骨のがんとは、骨に発生するがんのことで、悪性骨腫瘍といいます。
骨のがんは大きく分けて2種類あり、1つは最初から骨に発生する原発性骨悪性腫瘍、もう1つは他の器官に生じたがんが骨に転移する転移性骨腫瘍です。
原発性悪性骨腫瘍は、がんが発生した部位などによって、主に以下の6つに分類されます。
1. 骨肉腫
腫瘍性の類骨・骨を形成するがんのことで、原発性悪性骨腫瘍の中で特に多くの割合を占めます(※1)。どの年齢でも発症しますが、特に10~25歳までの若年者が罹りやすいといわれており、遺伝的な要因が関係していると考えられています。
腫瘍は一般的に膝の関節内やその周辺に発生する傾向にありますが、全身のどの骨からも発生する可能性があります。(※2)
※1参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨肉腫(こつにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/0152/index.html,(参照 2024-06-12).
※2参考:国立がん研究センター 希少がんセンター.「骨の肉腫(ほねのにくしゅ)」.https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/bone_sarcomas/index.html,(参照 2024-06-13).
2. 軟骨肉腫
軟骨から生じる腫瘍のことで、四肢の他、骨盤や肋骨などに多く起こる骨がんです(※)。成人に多い病気ですが、子どもの頃から発症していた良性の骨の腫瘍が悪性化するケースもあります。
原発性悪性骨腫瘍の中では骨肉腫に次いで発症率が高く、悪性度が高いものは他の臓器へ転移するリスクが高まります。
※参考:MSDマニュアル家庭版.「原発性悪性骨腫瘍」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8%E3%80%81%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%80%81%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%AA%A8%E3%81%A8%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%81%AE%E8%85%AB%E7%98%8D/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E6%82%AA%E6%80%A7%E9%AA%A8%E8%85%AB%E7%98%8D,(参照 2024-06-12).
3. 悪性リンパ腫
骨のリンパ節に発生する腫瘍のことで、以前は細網肉腫と呼ばれていた疾患です(※)。
一般的に40~50代に多く、あらゆる骨で発生する可能性がありますが、原発性の骨の悪性リンパ腫の発症はまれです。
※参考:MSDマニュアル家庭版.「原発性悪性骨腫瘍」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8%E3%80%81%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%80%81%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%AA%A8%E3%81%A8%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%81%AE%E8%85%AB%E7%98%8D/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E6%82%AA%E6%80%A7%E9%AA%A8%E8%85%AB%E7%98%8D,(参照 2024-06-12).
4. 多発性骨髄腫
白血球の中にあるリンパ球のうち、B細胞から分化した形質細胞ががん化したもの(骨髄腫細胞)が、骨髄で増殖する病気です(※)。多発性骨髄腫になると、骨髄腫細胞や、異物を攻撃する能力がない抗体が増殖し、さまざまな症状を起こします。
ただ治療が必要とされるのは高カルシウム血症や腎不全、貧血、骨病変などの症状がみられる場合で、症状がない無症候性多発性骨髄腫の場合、すぐに治療は行われず、経過観察となることもあります。
※参考:国立研究開発法人 国立がん研究センター.「多発性骨髄腫」.https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/index.html,(参照 2024-06-12).
5. ユーイング肉腫
小さくて丸い小円形細胞からなるがんです。単にユーイング肉腫という場合は骨から発生したものを指しますが、筋肉や脂肪といった骨以外の軟部組織から発生したものは骨外性ユーイング肉腫と呼ばれています(※1)。
女性よりも男性に多く、かつ10~20歳に特に多く発生するという特徴があります。腫瘍が発生する部位は腕や脚がほとんどですが、骨がある部位ならどこでも発生する可能性があります(※2)。
※1参考:
※参考:MSDマニュアル家庭版.「原発性悪性骨腫瘍」.https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/08-%E9%AA%A8%E3%80%81%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%80%81%E7%AD%8B%E8%82%89%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%AA%A8%E3%81%A8%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%81%AE%E8%85%AB%E7%98%8D/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%80%A7%E6%82%AA%E6%80%A7%E9%AA%A8%E8%85%AB%E7%98%8D,(参照 2024-06-13).
6. 脊索腫
胎児のときにできる、脳の下部からお尻まで一筋に走る脊索と呼ばれる構造物に発生するがんです(※)。
脊索は通常、成長の過程でなくなっていくものですが、一部が頭の中に残って腫瘍化するケースがあります。発生部位の大半は仙骨、次いで頭蓋底が多く、この2つだけで全体の8割以上を占めます。
男女の差は確認されていません。また、成人のあらゆる年代層に発生するといわれています。
以上が主な原発性の骨のがんです。なお、転移性骨腫瘍については「骨のがんの転移について」の項目で詳しく説明します。
※参考:慶應義塾大学院 医療・健康情報サイトKOMPAS.「脊索腫」.https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000724.html,(参照 2024-6-12).
骨のがんの主な症状
骨のがんになった場合の主な症状を説明します。
1. 痛み
多くの場合、最初に現れるのが骨の痛みです。
痛みを感じるケースには個人差があり、歩行時など足に体重をかけた際に痛みを感じることもあれば、安静にしていても痛みを覚えることもあります。安静時に痛むケースは、夜間に多いのが特徴です。痛みはがんの進行とともに徐々に悪化していく傾向にあります。
2. しこり
少数ですが、患部にしこりができる場合があります。しこりは当初無痛ですが、徐々に痛みを感じることもあります。
3. 腫れ・ふくらみ
がんができた部位に腫れやふくらみが生じる症状です。
骨肉腫などによく見られる症状ですが、骨盤や背骨などに発生した場合は腫れが分かりにくいため、発見が遅れることもあります。
4. 骨折
がんの影響で骨がもろくなると、骨折しやすい状態になります。
転倒した、何かにぶつけたといった外的衝撃を受けた場合だけでなく、日常的な動作をしているだけで骨が折れることもあります。
5. 脊髄圧迫
腫瘍が骨を破壊して飛び出したり、骨折によって椎骨が変形したりすると、背骨に囲まれた神経の束(脊髄)が圧迫され、さまざまな症状が現れることがあります。
具体的には、痛みや筋力の低下、麻痺、しびれなどが起きます。
6. 高カルシウム血症
がんが骨に転移して骨の細胞を破壊すると、カルシウムが血中に放出され、血中のカルシウム濃度が非常に高い状態となる高カルシウム血症を引き起こすことがあります。発症すると消化管の不調やのどの乾き、多尿などの症状が見られる他、重症化すると錯乱や昏睡などを起こすこともあります。
また原発性の多発性骨髄腫も、骨の破壊を引き起こすため、高カルシウム血症の要因の一つです。
骨のがんの転移について
骨のがんのうち、他の臓器にできたがんが骨に転移したものを転移性骨腫瘍といいます。転移性骨腫瘍は、血液などによって運搬されて骨にたどり着いたがん細胞が成長して発生するものなので、全身の至るところに発生する可能性があります。
骨に元々発生する腫瘍の場合、良性と悪性の2種類がありますが、転移性骨腫瘍の場合は悪性(がん)なので、早期発見・早期治療が重要です。
なお前述した原発性骨腫瘍よりも転移性骨腫瘍の方が発生率は高く、骨のがん全体の大半を占めています。
骨に転移しやすいがん
転移性骨腫瘍の原因となるがんは複数ありますが、特に骨に転移しやすいものとして以下が挙げられます。
- 乳がん
- 肺がん
- 前立腺がん
- 腎がん
- 甲状腺がん
- 結腸がん
上記のうち、特に骨に転移する可能性が高いのは乳がんとされています。一方、日本人に多い大腸がんや胃がんは比較的骨への転移が起こりにくいといわれていますが、どのがんであっても骨に転移する確率はゼロではないので要注意です。
なお転移は原発巣から直接転移するケースもあれば、肺や肝臓など他の臓器への転移を経て、骨転移が起こることもあります。
がんが転移しやすい骨
がんはどの骨にも転移する可能性がありますが、特に多いのは脊椎や骨盤、肋骨といった体の中心にある骨とされています。
また長くて太い骨ほどリスクが高いとも考えられており、大腿骨(太ももの骨)や上腕骨(二の腕の骨)なども転移の確率が高いとされています。
骨のがんの検査
骨のがんは、主に以下の方法で検査されます。
1. X線検査
四肢や関節に常時痛みがあり、かつ安静時でも痛みが続く場合、まずX線検査を実施し、骨に異常がないかどうか確認します。
X線検査を行うと、骨の変形や腫瘍の有無などが分かりますが、一部の腫瘍(内軟骨腫や骨パジェット病など)を除き、この段階では腫瘍が良性のものか悪性のものか診断することはできません。そのため、X線検査で異常が認められた場合は、他の方法による検査が行われます。
2. CT検査
X線検査で十分な情報を得られなかった場合、CT検査を実施します。
CT検査もX線を使用する検査ですが、一般的なX線検査が一方向から一回のみ照射して体内の様子を一枚の画像に平面上に映し出すのに対し、CT検査はさまざまな方向からX線を照射し、体の断面を画像に映し出せるため、がんの形状や広がり方がより分かりやすくなります。
3. MRI検査
MRI検査は病変と正常な組織との違いがコントラストで表示されるため、骨軟部など正常な組織との区別がしにくい部位に異常が見られる場合に実施されます。画像も縦・横・ななめなどさまざまな方向の断面を表示できるため、より詳しい情報を得られます。
4. PET-CT検査
PET(陽電子放出断層撮影)検査とは、放射性薬剤を投与し、特殊なカメラを用いてその分析を行い、画像化する検査です。CT検査などの場合、病変があると考えられる部位に絞って検査を実施しますが、PET検査では薬剤が巡る部分、つまり全身を一度に調べられるところが大きな特徴です。
骨のがんの検査では、PET検査にCT検査を組み合わせたPET-CT検査を行うのが一般的で、両方の検査の画像を重ねて表示することで、より精度の高い診断が可能になっています。
5. 骨シンチグラフィー
特殊な薬剤を投与し、全身を撮影して骨造成を反映する検査のことです。
骨は常に破壊と再生を繰り返していますが、骨のがんが発生すると生まれ変わりのバランスが崩れ、骨を作り過ぎる(骨造成や骨硬化)、あるいは作らない(骨吸収や溶骨)といった現象が起き始めます。骨シンチグラフィー検査を実施すると、こうした骨の異常が分かるようになり、骨のがんの有無などを診断できます。
CT検査のように部位を絞るのではなく、骨格全体を調べられるため、多くの腫瘍の位置を一度に特定できるところが特徴です。
6. 生検
画像検査などの結果、がんの可能性が高いと診断された場合、病変の一部を採取して顕微鏡で調べる生検が行われます。生検は腫瘍に応じて、吸引生検・コア生検・直視下生検の3つに区分されます。
吸引生検は腫瘍に針を刺し、一部の細胞を吸引して検査する方法です。切開を伴わないので患者さんへの負担が少ないところが利点ですが、針が非常に細いため、がん細胞の採取に失敗する可能性があります。
一方のコア生検は吸引生検と同じ針生検の一種です。太い針を用いるため、より多くの細胞を採取できるところが特徴です。
通常はこの2つの生検が実施されますが、適切な診断を下すためにより多くの組織を必要とするケースでは、皮膚を切開して組織を採取する直視下生検が行われることもあります。直視下生検はがん治療としての外科手術と同時に行うことが可能です。
骨のがんの治療法について
骨のがんの治療法は大きく分けて4つあります。
単体で採用されることもあれば、がんの種類や進行度に応じて2つ以上の治療法を併用することもあります。どのような治療法を選択するかは医師の判断や、患者さんの希望などによって決められますが、病院によって採用している治療法が異なる場合があるので、注意しましょう。
1. 薬物療法
薬物を投与してがんの治療や症状の緩和などを目指す方法です。
中でも抗がん剤を用いた方法は化学療法と呼ばれており、がんの治癒や延命効果、症状の緩和に役立ちます。また、骨のがんの場合、痛みを抑えるための消炎鎮痛薬や、骨を破壊する細胞(破骨細胞)のはたらきを抑える薬などを投与することもあります。
2. 放射線療法
放射線をがん細胞に照射し、DNAにダメージを与えて破壊や縮小を促す治療法です。主に骨転移による痛みがある場合や、脊椎の骨転移の増悪によって脊髄圧迫の症状が出ている場合などに用いられます。
3. 手術療法
メスによる外科手術でがんを取り除く治療法です。
骨肉腫やユーイング肉腫、脊索腫の他、まれに悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などの治療に用いられることもあります。
なお他の臓器から骨に転移したがんについては、基本的に切除施術を行うことはありませんが、転移したがんが一部のみで、かつ手術で切除可能と診断された場合は、手術を選択することもあります。
4. 免疫療法
人の持つ免疫機能を応用してがんを治療する方法です。
中でもがんに対するものはがん免疫療法と呼ばれており、人に元々備わっている免疫を強化するという性質上、患者さんへの負担が少なく、かつ全身のがんにアプローチできるところが大きな特徴です。近年では、免疫療法の中でもがん治療への有効性が認められた免疫チェックポイント阻害薬を用いた療法に注目が集まっています。
骨のがんは若年層にも起こる病気
骨に発生するがんは、年齢や性別に関係なく起こる病気です。特に最初から骨に発生する原発性骨悪性腫瘍は10~20代の若年層にもよく見られるため、「若いから」と油断せず、気になる症状があったら早めに受診することが大切です。
なお、骨のがんの症状は痛みや腫れが中心であり、症状だけで骨のがんかどうか診断するのは困難なので、自己判断しないよう注意しましょう。骨のがんの治療は、がんの種類や進行度などに応じて単体あるいは複数の治療法を併用します。どの治療法がご自分に適しているか、医師としっかり相談して決めることが大切です。
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