頭頸部がんに対する免疫細胞治療の症例紹介
瀬田クリニックグループでがん免疫療法(免疫細胞治療)を受けられた頭頸部がんの方の症例(治療例)を紹介します。症例は治療前後のCT画像や腫瘍マーカーの記録など客観的データに基づき記載しています。
頭頸部がんの症例
症例①83歳 女性アルファ・ベータT細胞療法単独治療によりがんの縮小状態を維持している例(舌がんⅡ期)
治療までの経緯
2011年2月、前医で舌の左縁のがんを診断され、MRI検査で進行の可能性があることから、舌半切+再建手術の説明を受けられましたが、趣味の歌謡を続けたいとの希望があり、手術を拒否されました。放射線治療も機能障害の可能性があり拒否され、化学療法も同意されませんでした。免疫細胞治療を希望され、前医でペプチドワクチンを予定していましたが、HLAの型が合わないために、治療を受けることができませんでした。そこで4月に当院を受診されました。受診された時はステージⅡでした。
治療内容と経過
4月下旬よりアルファ・ベータT細胞療法を開始しました。1回目・2回目の治療直後に、倦怠感や発熱、血圧の上昇がありましたが、いずれの症状もしばらく経過観察したところ自然に消失しました。このとき、3回目以降の治療を中止することも検討しましたが、患者さんの強い希望で、治療を継続することにしました。3回目治療前に降圧薬を増量したところ、それ以降、副作用は起こりませんでした。8月上旬、6回の治療が終了した時点でMRI検査を行うと、画像上がんは消失していましたが、肉眼的にはわずかな凸凹が見られたため、縮小と判断しました。11月上旬、12回の治療が終了した時点で、患者さんの希望により治療を終了しました。その後、2012年2月上旬のMRI検査でも縮小した状態を維持しています。
考察
この患者さんは、アルファ・ベータT細胞療法以外の治療は受けていないことから、がんの縮小はアルファ・ベータT細胞療法の効果であると言えます。6回の治療終了時の画像で、がんは消失していましたが、肉眼的にはわずかな凸凹があり、ミクロながんは残っていると考えています。患者さんの希望で手術、放射線治療は拒否されているため、治療効果を高めるには化学療法との併用が良いと考えられますが、現在発症から約1年経過しても進行せず無症状で生活されており、患者さんの希望の状況が維持できていることについて、アルファ・ベータT細胞療法の治療効果は大きいと考えています。
症例②50歳代 女性治療前のがん細胞の検査に基づき治療法を選択。アルファ・ベータT細胞療法とNK細胞療法を併用し、4年間、通常の生活を続ける舌がん肺転移症例
治療までの経緯
2008年4月頃から舌にしこりを感じていました。2010年頃より痛みや正しく発音できない症状がみられ、3月に大学病院を受診しました。8月、全身麻酔の下で舌の一部を切除して組織検査を実施した結果、舌がんと診断されました。10月、舌がんの追加切除を実施し、2011年1月より、術後の治療としてTS-1と放射線療法を併用しました。2011年9月、左肺に転移性の腫瘍がみつかり、左上葉の一部と左下葉を切除しました。2013年3月、右肺にも転移性の腫瘍(画像①参照)がみつかりました。進行が比較的ゆるやかであること、病変が複数あるため放射線療法が厳しい状況であること、手術も侵襲が大きく、生活の質(Quality of life)を大きく下げる可能性が高いことから積極的な治療はせず、経過を観察することになり、7月、免疫細胞治療検討のため当院を受診されました。
治療内容と経過
がん細胞の目印を調べる検査(免疫組織化学染色検査)の結果より、樹状細胞ワクチンの適応は低いと判断し、2013年8月よりアルファ・ベータT細胞療法を開始しました。10月のCT検査にて肺の転移巣の増大が確認(画像②参照)されたため、5回目の治療よりNK細胞療法へ変更しました。2014年6月のCT検査(画像③参照)では、肺の転移巣は不変な状態でした。NK細胞療法を6回受けた後、免疫の状態を調べる検査(免疫機能検査)を実施したところ、治療前の検査結果と比較するとガンマ・デルタT細胞の比率は著明に増加し、アルファ・ベータT細胞の比率は正常化、キラーT細胞およびNK細胞の比率は保たれていました。そのため、NK細胞療法の治療間隔を3ヶ月毎に延ばしました。2015年3月の免疫機能検査では、抑制性T細胞も正常化したため、 NK細胞療法の治療間隔を4ヶ月毎に延ばしました。6月のCT検査(画像④参照)で軽度の増悪が見られましたが、治療方針は変更しませんでした。12月の免疫機能検査でもNK細胞の比率は前回および前々回と比べても大きな変化はありませんでした。2016年6月のCT検査(画像⑤参照)では病巣は不変な状態を保っており、11月の免疫機能検査はガンマ・デルタT細胞の比率が増加していました。2017年5月のCT検査(画像⑥参照)ではやや増悪傾向がみられますが、不変な状態を保っており、現在もNK細胞療法を継続しています。右肺の転移巣がみつかってから4年が経過しましたが、日常生活に制限なく、現在もお仕事を継続されています。
考察
本患者さんではがん細胞の目印(MHC class 1)が失われているため、活性化自己リンパ球療法を選択しました。瀬田クリニックグループでは活性化自己リンパ球療法として、3つの治療法を提供しています。一つはアルファ・ベータ(αβ)T細胞療法で、本患者さんでも選択されています。アルファ・ベータT細胞療法はがんを攻撃する力のあるT細胞を全般的に活性化し、数千倍に増やしたT細胞を体内に戻す治療法です。この治療法は、がんに対する攻撃力を高める効果や免疫を抑制する細胞(制御性T細胞)を低下させることにより免疫機能全体を改善する効果があります。また、本患者さんで選択されたもう一つのリンパ球療法であるNK細胞療法は、本患者さんのようにがん細胞の目印(MHC class 1)が失われている場合、特に効率良く働くことが知られており、事実、本患者さんにおいても長期にわたり安定した状態が認められています。
もう一つの活性化自己リンパ球療法は、本患者さんには用いられませんでしたが、ガンマ・デルタ(γδ)T細胞療法というものです。このガンマ・デルタT細胞は細菌やウイルスなどに感染した細胞やがん化をはじめた細胞の変化を素早く感知して攻撃をしかけるといった特徴があります。特に、骨転移のある方、抗体医薬を使用中の方などに用いられます。
このように、瀬田クリニックグループでは患者さんの病状や免疫状態、腫瘍細胞の特徴などを詳しく調べ、それぞれの患者さんに適した治療選択を行っています。