がん治療の効果の矛盾―③ 治療法の評価をするのは誰か?
院長ブログ
がん治療の効果を表す指標としては、比較的に短期間で結果が出せる奏効率(がんを縮小させる割合)、無増悪生存率(がんが悪化しない割合)と非常に長い年月を要する生存率があります。「がん治療の効果の矛盾―①、②」では、がんを縮小させる治療、悪化を抑える治療がかならずしも、生存期間を延長しないこと、逆に短くする場合があることを学術論文を紹介して解説しました。
この一見、矛盾したことが起こる理由は、治療による副作用の問題から説明ができました。そのため、がん治療の効果は最低限、生存率で評価しないといけないことになります。では、今回は治療法の評価はいったい誰がするのか、について述べたいと思います。
治療法の評価方法 ― ランダム化比較試験とは
私たちも治療の効果に関してはできるだけ、生存率を算出し、報告するようにしています。それらをこれまで多くの論文で大学病院、拠点病院との共同研究としても報告してきました。ただ、生存率が良くなることを正確に証明するには、さらに長い年月をかけた実験が必要です。これはランダム化比較試験とよばれる手法です。この試験は、私たちのような医療機関では非常にハードルが高い研究となりますが、ただ、過去には多くの研究医療機関で免疫細胞治療に関するランダム化比較試験が行われ、免疫細胞治療が生存率を改善する結果が得られています。また、最大のエビデンスとされる多くのランダム化比較試験の結果を集計するメタアナリーシスという研究結果も出されています。詳しくはこちらをご覧下さい。
治療法の評価は患者さんの判断
ただし、「がん治療の効果の矛盾―②」で述べたように、治療の効果は単に生存率だけで十分に語ることはできません。治療の評価は、本来は患者さんがどれだけその治療を受けて良かったかを基準に考えるべきです。たとえば、商品の評価はそれを使う消費者によって判断されるべきであることは言うまでもありません。そのため、治療法の評価は、それを受けた患者さんの判断がすべてです。
治療法の判断はどうやってするのか
それでは、ある治療について、それを受けた患者さんによる治療効果の判断は、一般にどうやって知ることができるでしょう。最近では以下の3つが主流となっています。
① SNSや口コミサイト…広く知れるが、人為的であったり信用困難
② メディア記事…偏った記事が多数
③ 体験談…極めて限られた意見
※医療情報に関する考え方は、以前のブログ「SNSと論文ー科学的な情報発信ー」で述べましたのでご覧ください。
しかし、実際にはSNSや口コミ、偏ったメディアでは判断できません。体験談も限られた一部の意見にすぎず、全体を表しません。
患者さんの中には、「自分の親ががんで、強い抗がん剤治療を受けて苦しんだあげく、効果がなくそのまま亡くなってしまった。自分は絶対に受けたくない。」とおっしゃる方がいらっしゃいます。私はそのような方へは、「そういったケースがあるとしても、抗がん剤がよく効いて、副作用も少なく、とても長生きできた患者さんもいます」、「抗がん剤を受けるかは、その副作用も含めて十分な説明を受けた上で決めましょう」と経験を踏まえてお応えしています。
治療法の評価は患者さんが決める
患者さんにとっては、長く生きることだけが治療の目的ではありません。立場も考え方も価値観も一人一人、違いますから、一定ではありません。この点ががん治療の効果の評価をもっとも難しくしています。この治療法が正しいと医師が決めて、それをすべての患者さんに画一的に勧めることは大きな間違いです。医師は正確な情報を提供した上で、一人一人、個別に患者さんと一緒に考えて、最良の提案をすべきです。
現在、実施されているランダム化比較試験においては、単に生存率を評価項目(エンドポイント)としていますが、治療を受けた患者さんのその治療法の評価も是非、併せて調査するべきではないでしょうか。商品の価値を評価する場合、消費者からの聞き取りによる満足度を調査するのは当然のことです。患者中心の医療としては、この点を治療法の評価にも加えることが必要と思います。
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