自然免疫=パトロール部隊と獲得免疫=精鋭部隊
~2つの免疫応答~
前回「免疫力とは」のブログでは、免疫応答には自然免疫、獲得免疫の2段階があるということを述べました。『がん細胞の攻撃』もこの2つに分けて説明されます。今回はこの自然免疫と獲得免疫のしくみについて少しお話したいと思います。
自然免疫=パトロール部隊と獲得免疫=精鋭部隊
自然免疫と獲得免疫のしくみを理解するとき、軍隊にたとえると少しわかりやすくなるかもしれません。
自国を守るには、国境から侵入する敵(ウィルスなど)や敵国の味方となって破壊活動を行う不穏分子(がん細胞など)を制圧する必要があります。
パトロール部隊(自然免疫)は身体の中をいつも、パトロールしています。その過程で、内外から攻めてくるさまざまな敵(ウィルスやがん細胞など)を見つけ出して、発見しだいすぐに攻撃し、排除する部隊です。
精鋭部隊(獲得免疫)は、敵(ウィルスやがん細胞など)の特徴を分析したあと、その敵(ウイルスやがん細胞など)ごとに攻撃任務を指令された部隊。この精鋭部隊には、敵(ウイルスやがん細胞など)を識別するための情報が伝えられており、その情報を目印に体内を捜索して攻撃します。
このようにパトロール部隊(自然免疫)と精鋭部隊(獲得免疫)の2段階で攻撃するのです。
精鋭部隊(獲得免疫)は一度戦った敵の情報を記憶(メモリー)する!
精鋭部隊(獲得免疫)は、制圧し敵(ウィルスやがん細胞など)がいなくなったらいったん解散です。しかし、精鋭部隊(獲得免疫)は完全に消滅するわけではなく、軍隊という組織のなかに部隊の記憶(メモリー)は残り、将来、同じ敵が現れたら素早く結成され、初期段階から強力な攻撃を行うことで、敵(ウィルスやがん細胞など)を寄せ付けなくなります。
精鋭部隊(獲得免疫)は優れた攻撃力を備えていますが、パトロール部隊(自然免疫)と比べると次のような劣る面があります。
- 侵入した敵(ウイルスやがん細胞など)を認識し情報を得て部隊を結成するまでに時間がかかる
- 任務を請け負った敵(ウイルスやがん細胞など)以外に対しては戦闘を行わないし、他にもっと凶悪な敵(ウィルスやがん細胞など)がいたとしても、いっさいかかわることはない
パトロール部隊(自然免疫)は敵(ウィルスやがん細胞など)の情報を記憶(メモリー)できませんが、精鋭部隊(獲得免疫)より優れている面は、精鋭部隊(獲得免疫)が結成されるまでのあいだは、パトロール部隊(自然免疫)が敵(ウィルスやがん細胞など)を素早く攻撃してくれ、次の精鋭部隊(獲得免疫)の攻撃につなげます。
免疫を担う細胞にはどんな種類があるの?
がん細胞を殺傷する自然免疫と獲得免疫の免疫応答は担当する細胞が異なります。また、がん細胞の識別の仕方も異なります。
自 然 免 疫 |
食細胞 (マクロファージ、好中球など) |
… | ウイルスやがん細胞などの病原体をどんどん細胞内へ取り込み消化して破壊する |
---|---|---|---|
NK細胞 | … | 異常な細胞をすばやく発見し攻撃を行う | |
NKT細胞 | … | ⾃然免疫と獲得免疫の両⽅の機能を合わせ持つ | |
獲 得 免 疫 |
樹状細胞※ | … | ウイルスやがん細胞を貪食して消化し、T細胞へ敵の識別情報と攻撃指令を出す。NKT細胞の誘導にも関わる。 |
ヘルパーT細胞 | … | 樹状細胞からの指令を受けて、キラーT細胞とB細胞を支援する | |
キラーT細胞 | … | ヘルパーT細胞の支援や樹状細胞の指令を受けて、異常細胞への攻撃を行う |
※樹状細胞が、自然免疫と獲得免疫の橋渡しとなり重要な役割を担います。
詳しくは、次回の院長ブログで解説します!
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