アブラキサンの供給停止
院長ブログ
先日、来院された患者様は切除不能な膵がんでジェムザールとアブラキサンによる併用化学療法を受けていらっしゃいます。そのおかげで半年間以上、ほぼ進行はおさまり、ほぼ順調に経過しています。ところがアブラキサンの日本への供給を行う生産拠点で製造上の不具合がみつかり、生産が中断、日本への供給が停止となるようです。その情報は既に聞いていましたが、製薬会社、厚労省、関連学会、各種団体などが対応を進めており、何とか解決されるものと思っておりました。しかしながら、この患者様は次回の化学療法からジェムザール単剤での治療になるということでした。
患者さんからは、「自分はジェムザールが効いているのか、アブラキサンが効いているのか?」という質問を受けましたが、もちろん、答えは「アブラキサンが効いているかジェムザールが効いているか、あるいは両方をやらなければ効かないのかわかりません。」となります。さらには「アブラキサンを抜いたジェムザール単独での治療の効果はどうか?」という質問に対しては、ちょっと調べてみました。
ジェムザールとアブラキサンの併用化学療法は日本では2015年に膵がんで開始となっています。それまではジェムザールを単独で使っていたわけです。当時の記憶では、アブラキサンの追加は、膵がんに対して画期的な治療法の登場として脚光をあびていました。アブラキサンを併用することの効果を調べた、承認の根拠となった有名な論文があります。ジェムザール単独とジェムザールとアブラキサンの併用の無作為化比較試験です。治療効果の主要な評価は生存率(全生存)でされています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1304369
論文を読み直してみました。転移のみられる膵がん患者で、初回の化学療法における生存期間中央値はジェムザール単独では6.7ヶ月に対してアブラキサン併用では8.5ヶ月と2ヶ月近く延命しています。一方、副作用については、grade3以上の白血球減少、倦怠感、末梢神経傷害(しびれ)はジェムザール単独では16、7、1%、アブラキサン併用で31、17、17%の患者にみられ、副作用は増強していました。患者さんはしびれにかなり悩まされており、その点からはジェムザール単独での治療に一部、安堵している様子でした。ジェムザール単独治療の効果がなかった場合でもFOLFIRINOXやオニバイドなど、他の抗がん剤もあります。ともかく、早く供給停止が解決するのを願うばかりです。
瀬田クリニック東京では多くの膵がんの患者様の治療にあたって参りました。治療成績に関しても、学術誌に論文報告してきています。当院のホームページにも論文を掲載しています。
◆論文発表(発表された論文の一部を抜粋しています)
/about/research
※下記NO77、67、66、27は論文発表内に要約がございます。
NO 77
-進行膵臓がん患者の免疫学的パラメーターと予後に対するT細胞療法の効果
NO 67
-免疫細胞治療を受けた膵臓がん患者の予後因子
NO 66
-切除不能な局所進行膵臓がんにおけるゾレドロネートパルス樹状細胞ワクチン腫瘍内投与、活性化Tリンパ球静脈内投与およびゲムシタビンを組み合わせた包括的な免疫療法:第I / II相試験
NO 27
-手術不能な局所進行膵臓がん患者に対するゲムシタビンと免疫療法の併用療法
NO 17
-進行膵臓がん患者における免疫細胞療法の有効性
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