放射線治療と免疫療法併用への期待-①
院長ブログ
免疫療法は他の様々ながん治療との組み合わせで行われてきています。単に2つの治療法の効果が積み上げられるというだけではなく、お互いが相乗的に作用し、より優れた効果を期待するものもあります。免疫療法は放射線治療との併用により相乗効果が期待できる治療法であります。この放射線治療とがん免疫応答について、最近興味深い論文が発表されました。今回はその論文も紹介しながら、放射線治療と免疫療法の併用について考えて行きたいと思います。
膵臓がんの放射線治療における転移病巣への効果
この論文では、膵臓がんにおいて、通常はあまり行われていない転移病巣への放射線治療の効果を報告しています。
以下は論文の概要をできるだけ原文に沿って、多少の編集を加えて日本語でまとめました。
- 《対象》
- 転移が 5 個以下の膵臓がん患者
- 《試験内容》
- 転移巣に対する放射線治療および全身化学療法の併用(併用群)と全身化学療法のみ(単独群)を1:1で無作為に割り付けた比較試験が多施設共同で行われました。両群のがんの進行経過を一次評価項目とし、全身免疫応答の測定結果も探索的に評価しました。
- 《試験人数》
- 40 人(併用群 19 人、単独群 21 人)を解析
- 《結果》
- 無増悪期間(がんの進行が見られるまでの期間)の中央値は 併用群で 10.3 か月、単独群では 2.5 か月でした。転移巣に対する放射線治療を追加することにより無増悪期間 が有意に、約4倍に長くなりました。なお、放射線治療に関連する重症な副作用は認められませんでした。
- 《考察》
- 放射線治療に関連して全身の免疫応答の活性化が生じており、無増悪期間の改善と相関していました。がんの進行を遅らせた効果は全身の免疫応答の誘導による可能性があります。
※1 少数の転移巣
※2 MDアンダーソンがんセンターによる多施設共同研究です。Journal of Clinical Oncology誌に掲載されました。
放射線治療のアブスコパル効果とは?
それでは、なぜそのようなことが起こったのでしょうか。
がん組織に放射線をあてるとがん細胞に対する免疫反応が誘導、増強されることが古くから知られており、それには下記のような理由が考えられています。
- がん抗原の放出:放射線があたったがん細胞が破壊され、がん抗原が放出。それを樹状細胞が取り込みがん特異的キラーT細胞が多く誘導されること
- 免疫誘導分子の発現増強:がん細胞の持つ免疫誘導に関わる分子(MHCクラス1、Fasリガンド、HMGB1など)の発現を高めることや放出が生じること
このような免疫活性化が生じることにより、放射線をあてたがんから遠く離れた病巣のがん(放射線が当たっていない部位のがん)まで縮小することがあるのです。それをアブスコパル効果と呼びます。
しかし、このアブスコパル効果は極めて稀です。現在、瀬田クリニック東京で勤務している放射線治療が専門で、長年千葉大学の放射線科の教授を務めていた先生も、アブスコパル効果は1、2回しか経験したことがないそうです。
下記2つのサイトにもわかりやすく解説されていますのでご覧下さい。
→https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/syoukakigann/suizougann/post-28899.html
→https://ameblo.jp/hamaryo201404/entry-12869121139.html
今回はここまでとなります。次回は、アブスコパル効果についてさらに深掘りしてお話したいと思います。
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