臨床症例報告No.44 (PDF版はこちら 脳外科手術療法後の悪性膠芽腫に対し、化学療法・免疫細胞療法併用で1年3ヶ月の延命が得られた若年34歳主婦症例 メディトピア沼津内科クリニック 進藤 剛毅

  • 種類:頭頚部

INTRODUCTION

原発性脳腫瘍は、本邦で年間13,400例ほどの発生があり、そのうち11%(約1,500例)は原発性膠芽腫が占める。膠芽腫は、男性にやや多く発生し、45~60歳に好発している。発生後の腫瘍浸潤能が顕著である。
手術での根治は不可能であるため、術後に放射線療法と化学療法などの補助療法が必要である。悪性膠芽腫の予後は、他のグリオーマに比べ極めて悪い。近年テモダール化学療法と放射線療法併用で生存率の向上が見られているが、手術摘除例での5年生存率は7.8%程度と言われている。

CASE

本症例は34歳の3児の母であり、膠芽腫としては若年発症の女性で悪性度が高いと考えられる。2016年6月突然の頭痛で発症、近医で右側頭葉に出血、膠芽腫ならびに脳脊髄播種と診断され、精査加療のため金沢大学脳神経外科に入院、同年11月14日開頭手術で右側頭葉腫瘍は摘出されたが,前有孔質へ基底核穿通枝を巻き込む伸展病変が残存した。Glioblastoma (IDH-wild type,WHO IV期)の診断で、後療法としてテモダール併用下に全脳全脊髄照射36Gy、腫瘍床に追加拡大照射18Gyを照射施行し、2017年1月11日初期治療が完遂された。軽い脱毛以外は、神経学的には視野の狭窄を含め異状ない状態まで回復した(KPS90%)。

RESULT

維持療法として、2017年1月よりテモダール200mg/日×5日、4週間隔投与が県立がんセンターで始まった。同時に家族の強い要望で、αβT細胞療法が化学療法休薬時に併用投与で開始され、Figure1に示すようにリンパ球(LyC)減少も食い止められ増加に転じ、N/L比は9.74から2.85に急速に改善し、WBCも3~4,000台が維持され、体重(BW)も44Kgから48Kgに増加した。患者の免疫能を表すCD4/CD8比は1.23~1.27に良好に維持され、画像でも残存腫瘍は漸次縮小(Figure2-1)し、6か月後の8月中旬の患者は3人の子供の世話をしつつ安定した日常生活を続けていた(PS0) 。
しかし、8月半ばの画像診断で残存腫瘍の増大が認められ、化学療法はアバスチン200mg/日、隔週休薬に変更された。これに合わせて対癌免疫能増強を図る目的で自己癌組織ライセートによるDCワクチン療法を、化学療法休薬時にαβT細胞療法と合わせて併用した。日常生活力は維持され(PS0)、免疫能CD4/CD8比も良好に維持され、11月までは頭部画像腫瘍陰影の縮小が認められたが、2018年1月に入り再び腫瘍は増大傾向をはじめ(Figure2-2)、患者の日常生活力も体力も活動範囲も漸次縮小傾向を示しはじめ、ケトン療法の影響で体重減少も著明となり、3月21日に自力では動けなくなり県立がんセンター入院となり3月29日に亡くなられた。

Figure1:34歳、女性 GBM

Figure2-1・Figure2-2

DISCUSSION

膠芽腫の外科療法は可能な限り腫瘍を摘出する必要があるが、全摘出は不可能であり、患者の延命には化学療法と放射線療法の補助療法などが必要となる。その1つとして、副作用がほとんどなく且つ他の治療法と広く併用可能な免疫細胞療法は、新たな意義ある延命治療法と考えられる。
本例の外科切除術では、神経的障害を最小限に抑えるため脳深部に腫瘍の一部を残したが、テモダール化学療法と放射線療法を加えて、殆ど神経障害を残さずにKarnofsky Performance Scale (KPS) 90%で初期治療が完遂されている。
KPSはパーセント標示で患者生活活動状態を表し、ECOGのPerformance Status (PS)0がKPS100~80%、PS4がKPS20~0%にほぼ対応する。
悪性膠芽腫に対するαβT細胞療法は、化学療法によるリンパ球の減少・減弱を抑制し補強する働きを示す臨床データが発表されている1)。さらにαβT細胞療法はリンパ球抑制T細胞(Treg)を抑制する作用もある2)

患者のがんに対する免疫能力の表現法としてCD4/CD8比は簡便に測定が可能であり、3か月毎の測定での測定値の減少傾向は、この期間における癌免疫能の回復・向上を表し、測定値の増加はその期間における免疫能の低下、つまり癌組織の抵抗力・活力の増強を示唆すると考えられる3)
本例においても、αβT細胞療法がリンパ球減少を食い止めたことがFigure1でのLyCの増加とN/L比の急激な減少で見事に示された。またCD4/CD8比の1年間の長期間の穏やか低下を示す水平ラインから、患者免疫能が長期間維持されたことが推定できる。
約1年にわたる体重の増加と維持や日常生活力でのPS0状況が1年近く保たれたことが、Figure1でLyC、N/L比、WBC、 CD4/CD8比の動向と一緒に表示することにより、患者免疫力維持の内容が具体的に示されたと考えている。
今後のGBM症例への有力な補助治療法として免疫細胞療法、DCワクチン療法の継続的な治療による長期予後への貢献が望まれる。

REFERENCES

  1. Kanemura Y, Sumida M, Okita Y et al: Systemic intravenous adoptive transfer of autologous lymphokine-activated αβΤ–cells improves temozolomide-induced lymphopenia in patients with glioma. Anticancer Res 2017; 37:3921-3932.
  2. Noguchi A, Kaneko T, Naitoh K et al; Impaired and imbalanced cellular immunological status assessed in advanced cancer patients and restoration of the T cell immune status by adoptive T-cell immunotherapy. Int Immunopharmacol 2014; 18: 90-97.
  3. Shindo G, Endo T, Onda M et al. Is the CD4/CD8 ratio an effective indicator for clinical estimation of adoptive immunotherapy for cancer treatment? J Cancer Therapy 2013; 4: 1382-1390.