臨床症例報告No.43 (PDF版はこちら) 免疫細胞療法単独にて寛解(CR)を維持している大腸癌の症例
- 種類:大腸
INTRODUCTION
大腸癌は、40歳以降に増え始め、高齢になるほど罹患率が高くなる。その罹患数は年間約80,000人を超え、増加傾向にある。大腸癌の5年生存率は、72.1%であり、Stage別ではⅠ/Ⅱ/Ⅲa/Ⅲb/Ⅳ:91.6/84.8/77.7/60.0/18.8%である1)。大腸癌は早期であれば治癒切除が望めるが、約80%は術後3年以内に再発がみられ、肝臓、肺、局所、リンパ節、腹膜等に再発が多く見られる。
今回、大腸癌の患者に対し免疫細胞療法単独で著効し、1年以上寛解を維持している症例を経験したので報告する。
CASE
【70歳代、男性、大腸癌、PS=0】
特記すべき既往歴はなし。
2014年10月、食欲不振で近医受診し、回盲部膿瘍および急性虫垂炎疑いで入院。精密検査の結果、大腸癌と診断。同年11月に腹腔鏡下右結腸切除術、D3郭清を施行(Type2、45×45mm、tub2、pT3、int、INFb、ly0、v0、PN0、pN0 (0/6)、pPM0、pDM0、pStage II)。
2016年5月、CTにて吻合部外側に腹膜播種もしくはリンパ節転移と考えられる結節を認め、PETでは同部位にFDG集積を認めた。再発と判断し化学療法を勧められるも、患者本人が治療を拒否され、同年8月、免疫細胞療法検討のため当院を受診された。高齢のため、免疫細胞療法単独での治療を本人が希望され、先行してαβT細胞療法を開始した。HLA(A0206、A1101)、免疫染色検査(MHC-Ⅰ(3+)、MUC1(+)、CEA(3+)、Survivin (3+))の結果より、10月よりMUC1、CEA、Survivinペプチド添加型のDCワクチン療法を2週間間隔で開始した。
2017年1月、PETにて再発病巣の消失を認めた。
RESULT
PETでの悪性を疑うFDG集積は認めず、再発病巣(Figure 1)は2018年1月のPETで寛解(CR)を維持している。治療間隔を6週ごとに延ばし、現在も継続している。
DISCUSSION
本例は右側結腸である回盲部に発生した大腸癌で、術後の再発に対して免疫細胞療法単独により寛解が認められている症例である。近年、大腸癌に対するがん薬物療法の治療成績は向上しており、全生存期間中央値ならびに無増悪生存期間はめざましく改善している。これには抗癌剤そのものの効果のみならず、分子標的薬登場の影響も大きく寄与している。2016年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)において、CALGB/SWOG 80405試験の探索的解析結果が報告され、抗癌剤への抗VEGF抗体ベバシズマブあるいは抗EGFR抗体セツキシマブの追加に有意差はみられないものの大きく予後を改善していることが示された。更に、層別化解析で原発巣が左(下行結腸、S状結腸、直腸)か右(盲腸、上行結腸)かで、OS中央値が左原発巣で33.3カ月、右原発巣で19.4カ月と有意差が認められることが報告された。
右側結腸癌と左側結腸癌は以前から、発見のしやすさや症状の表れ方によって予後が異なると考えられていた。すなわち、左の場合は直腸や結腸の腸閉塞、あるいは下血をきっかけに発見されることがある一方、右側は便が液状なので発見が遅れることが予後の悪化に関連していると考えられていた。しかし、右側結腸と左側結腸は発生学的に異なり支配血管も別であることが知られている。更に腸内細菌叢も右側と左側で異なり、大腸癌発生の頻度にも影響を与える可能性が指摘されている。加えて、1985年頃からは、左右の原発巣で各種癌遺伝子の発現様式が異なることが着目され、右側結腸癌にDNAの塩基配列の繰り返し(マイクロサテライト)の不安定性(microsatellite instability: MSI)陽性が多くみられることが報告されている2)。つまり、遺伝子レベルでの背景因子も予後に影響を与えることが指摘されている。
このMSIが陽性であると、異常蛋白の発現が高くなりいわゆるネオアンチゲンを多く発現することが予想され、免疫系に非自己として認識されやすくなる可能性が考えられる。こうしたMSI陽性大腸癌と陰性大腸癌に対して、免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブの臨床的効果を検証する試験が報告された3)。その結果、MSI陽性大腸癌においては無増悪生存期間と全生存期間ともに有意に予後が良好であったと報告されている。実際、MSI陽性大腸癌ではwhole genome sequenceによって体細胞変異がMSI陰性大腸癌の24倍認められた(MSI陽性では平均1,782個、陰性では平均73個)。つまり、右側か左側かによって免疫チェックポイント阻害剤など、免疫治療への反応性が異なることが予想される。
本例はMSIの検討はしていないものの、回盲部(右側結腸)に発生していることからネオアンチゲンが多く発現するタイプで、免疫細胞治療が奏効した可能性があり今後検索を行う予定である。
REFERENCES
- 大腸癌研究会/編 大腸癌治療ガイドライン医師用2016年版
- Stintzing, S., et al. Eur J Cancer 2017:84:69-80
- Le, D.T., et al. N Engl J Med. 2015:372:2509-2520