臨床症例報告No.37 (PDF版はこちら アルファ・ベータT 細胞療法単独治療により寛解を維持している舌がん症例 医療法人祐基会 帯山中央病院  吉田 直矢

  • 種類:頭頚部

症例

83 歳、女性

現病歴

2011年2月、前医で舌左縁のびらんに対し精査を行い、生検で扁平上皮癌と診断された。MRI で深部浸潤が疑われ(画像1)、舌半切+筋皮弁再建の説明を受けられたが、趣味の歌謡を続けたいという希望があり手術を拒否された。放射線治療も機能障害の可能性があり拒否された。化学療法も同意が得られなかった。免疫療法を希望され前医でペプチドワクチンを予定したが、HLA タイピングが不適合で受けられなかった。4 月に当院を受診となった。受診時の病期分類はcT2, cN0, cM0, cStⅡであった。

治療経過

4 月下旬からアルファ・ベータT 細胞療法療法を施行した。初回治療直後に2 時間ほどの倦怠感(グレード2) と37.0℃の発熱を認めた。2 回目の治療後には1 時間ほど関節痛(グレード1)、生あくび、体が火照る感じが継続し、収縮期血圧が200 以上と上昇した(グレード2)。いずれの症状も、末梢輸液をしながら経過観察したところ自然に消失した。このとき3 回目以降の治療を中止することも検討したが、本人の強い希望があり治療を継続することとした。3 回目治療前に降圧薬を増量し、それ以降は有害事象を認めなかった。8月上旬、1 コース(6 回) の治療が終了した時点でMRI を行い、画像上CRとなった(画像2)。しかし肉眼的には僅かな凹凸を認め、PR と判断した。11月上旬、2コースの治療が終了した時点で、本人の希望にしたがい治療を終了した。その後、2012年2月上旬のMRI 検査でも寛解を維持している。

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考察

この症例はアルファ・ベータT 細胞療法以外の治療を受けておらず、腫瘍縮小は免疫療法の効果によるものである。1 コース終了時の画像ではCR であったが、肉眼的には僅かな凹凸不整があり、micro な癌組織は遺残しているものと考えている。本人の趣味のことがあり手術、放射線治療を拒否されているため、治療効果を高めるためには、化学療法と免疫療法の併用が良いように思われる。しかし現在発症から約1 年が経過し、進行せず無症状で生活されており、本人の希望された状況が維持できている点については、免疫療法が寄与した役割は大きいと考える。