臨床症例報告No.33 (PDF版はこちら 鼻腔悪性黒色腫の皮膚転移、リンパ節転移に免疫細胞療法とインターフェロン-βの混合局注が有用であった症例 瀬田クリニックグループ/ 瀬田クリニック大阪  山﨑 達枝

  • 種類:皮膚

背景

悪性黒色腫は皮膚がんの一つで、非常に悪性度が高いと報告されている。日本人の発生率は白色人種に比べるとかなり低いが、40歳代から急に多くなり、近年増加傾向にある。どの皮膚にも発生するが、足底に多く、粘膜にも発生する。早期発見の場合は外科切除で治癒の可能性が高い。一方、進行してリンパ節転移または遠隔転移が認められる場合は、化学療法が治療の主体となるが、治癒することは稀である。 
古くから悪性黒色腫は抗原性が高い ( 免疫細胞に認識され易い ) ため、免疫細胞療法の対象疾患とされてきた。ここでは、1年にわたり免疫細胞療法で進行が抑えられた症例を報告する。

症例

50歳女性、20XX年1月鼻閉感、鼻出血出現。右鼻腔腫瘤を認め、生検の結果、鼻腔悪性黒色腫と診断された。同年5月15日前頭蓋底手術+大腿筋膜再建手術が施行され、術後、ピシバニールによる非特異的免疫療法が行われていた。同年10月頃より全身の皮膚及び表在リンパ節に転移出現、化学療法を1クール行うも、副作用のためご本人の希望で中止。同年12月当院初診、HLA-ABCローカス検査を実施。相談の結果、翌年1月からTRP-1(2クール目からはTRP2-2に変更)、NY-ESO-1を用いた樹状細胞ワクチンとアルファ・ベータT細胞療法(DC+αβT-LAK)を3回目までは2週間間隔、4回目からは1週間間隔で施行。又、3回目からは転移部位へのインターフェロン-βと活性化自己リンパ球の混注を主治医にて施注された。1クール(6回)終了時の同年3月、皮膚転移巣については治療開始後の出現が7個あったが、14個の消失、9個の縮小、7個のやや縮小、CTでは頸部リンパ節、胸部リンパ節の縮小を認めた。以後も5月31日までは1週間間隔で、6月からは2週間間隔で治療を継続し、7月のCTでは明らかな進行を認めなかった。10月以後は治療間隔を徐々に延長し、12月21日に29回目にて終了した。その問、全身状態も良好で、8月、10月には化学療法(ダカルバジン、ニドラン、プラトシン、タモキシフェン)を施行された。12月21日、第29回目のDC+αβT-LAK施行にて免疫細胞療法を終了、その後他院でフォローとなった。

考察

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遠隔転移をきたした悪性黒色腫では、腫瘍が小さくても治癒は殆ど望めず、標準治療の化学療法については、副作用が大きな問題となることも多い。本例は、手術後遠隔転移をきたし、化学療法が副作用のため中止された状態で、1年間免疫細胞療法とインターフェロン β の局注を施行した。1クール目は改善を認め、2クール目以後は明らかな進行を認めず、治療期間中全身状態は良好に保たれた。 
 現状では、免疫細胞療法が生存率の明らかな改善をもたらすことは確認されていないが、化学療法、免疫細胞療法、生物学的治療の、単独や併用の効果をそれぞれ比較する試験が各所で行われており、今後の結果が待たれる。

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