臨床症例報告No.30 (PDF版はこちら) 少量のパクリタキセルとトラスツズマブ、免疫細胞療法(CD3-LAK法)により長期の寛解を維持している転移性乳がん症例
- 種類:乳房
はじめに
転移性乳がんに対してはタキサンを中心とした化学療法の有効性が高く、また、HER-2/neuの過剰発現のある腫瘍に関してはtrastuzumab(ハーセプチン®)が併用で使用されている。パクリタキセル(PTX)は80mg/m2程度のdoseにてweeklyでの投与の有効性も報告されている。化学療法による奏効率は高いものの、肝などへの遠隔転移例における長期の予後についてはかならずしも良好ではない。また、パクリタキセルのweeklyでの投与をいつまで継続すべきかなどは確立していない。今回、4週間間隔での65mg/m2という極少量のPTXの投与にトラスツズマブ、免疫細胞療法(CD3-LAK法)を併用して約3年間にわたり寛解を維持できている転移性乳がん症例を経験し、報告する。
症例
症例は65歳、女性、2000年7月に左乳がんにて左乳房切除術、リンパ節郭清術を受ける。術後、化学療法(CMF)を3コース受けた。
2002年6月に左腋窩リンパ節に再発、切除を受ける。15の切除リンパ節のうち、11のリンパ節に転移がみられ、ER(-)、PgR(-)、ハーセプテストは3+であった。切除後、腋窩に50Gyの放射線療法が施行された。同年、11月左鎖骨上リンパ節の腫大あり、転移再発の診断にてトラスツズマブを2週間間隔での投与が開始された。2002年12月に当院を初診、トラスツズマブと活性化自己リンパ球療法(CD3-LAK法)の併用での治療方針とした。2003年2月24日より2週間間隔で活性化自己リンパ球療法を施行、2003年5月6日までに6回の治療が終了した。鎖骨上リンパ節は触診上、触知できなくなり、超音波検査にても直径3mmに縮小、その後はトラスツズマブのみで経過をみることとなった。しかし、2004年1月の腹部CTにて肝に多発性転移が出現した(Figure1)。血液検査にてCEA,CA15-3は各々、11.2ng/ml,77.2U/mlと上昇が観察された。トラスツズマブは継続の上で、1月23日よりWeekly PTX(80mg/m2)が開始され、また、2月9日より活性化自己リンパ球療法を4週間間隔で再開した。4月からはPTXは同量を2週間間隔での投与に変更した。
2004年5月21日のCTでは肝転移巣は部分寛解の状態であった(Figure2)。6月からはPTXを4週間間隔とし、活性化自己リンパ球療法も4週間間隔で継続した。2004年11月からはPTXを更に減量して65mg/m2を4週間間隔での投与として、活性化自己リンパ球療法は8週間間隔とした。2005年7月からは活性化自己リンパ球療法を3ヶ月間隔とした。2007年1月のCTにても肝転移巣は寛解が維持されており(Figure3)、新病変の出現なく、腫瘍マーカーの上昇もなく、約3年間安定した経過をたどっている。
経過
HER-2/neuの過剰発現のあるホルモン受容体陰性の乳がんの肝転移例に対して化学療法(PTX)、抗体療法(トラスツズマブ)に免疫細胞療法を併用した症例を報告した。経過より、PTXが有効で肝転移の寛解を得られたものと判断される。Weekly PTXの奏効率は高く、50%以上とする報告が多いが、奏効期間あるいはtime to progressionはかならずしも長くなく6Mから11M程度とする報告が多い 1、2)。
また、奏効例においてPTXをいつまで、どのように継続するかに関しては確立していない。本症例においては、PTXを漸減して、最終的に65mg/m2を4週間間隔という極めて少量の投与で寛解が維持されており、興味深い。本例ではトラスツズマブ単剤の投与中に肝転移を生じたことから、トラスツズマブ単剤での効果は望めないと思われるが、トラスツズマブはその作用機序の1つとして、抗体依存性細胞障害(ADCC)が知られており、活性化自己リンパ球に含まれるNK細胞などはそのEffector細胞として機能しうると考えられ、相乗的な効果も期待される。また、PTXは細胞毒性以外に腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインの誘導能を有していることが知られており、作用機序の1つとして免疫学的な作用も考えられており、免疫細胞療法を併用することでの効果増強が期待される 3)。