臨床症例報告No.28 (PDF版はこちら) 多発骨転移を有するIV期前立腺癌に対し、樹状細胞ワクチンを含む免疫細胞療法と内分泌療法との併用により長期不変となっている症例
- 種類:前立腺
はじめに
前立腺癌はアンドロゲン(男性ホルモン)依存性の腫瘍である。近年欧米並みに罹患率が増加傾向にあり、ごく初期のものを含めると50 歳以上の日本男子の20.5%に発生しているとされている。時に骨転移を起こし、内分泌療法・化学療法・骨転移部の疼痛緩和のための放射線照射などが主な治療となる。
症例
64歳男性で既往歴と家族歴に特記すべきことはなかった。腰痛を主訴に2004年9月に精査したところ、PSA値152(ng/ml)と異常高値を指摘され、生検にてGleasonscore8の前立腺癌と診断された。同年12月の骨シンチグラムとMRI検査骨上、胸椎・腰椎・仙骨・肋骨に計12箇所の多発骨転移を指摘された(Figure1)。酢酸リュープロレリン、インカドロン酸二ナトリウム、ビカルタミドによるホルモン療法を開始し、2005年6月にはPSA値は14.8まで低下したが、7月以降に再上昇してきたため、免疫細胞療法の併用を希望され2005年8月2日に当院を紹介初診された。9月5日のPSA値は17.2と上昇傾向で、腰椎圧迫骨折による杖歩行の状態であった。
培養方法
HLA-A*0201; PAP-5,PAP-10, HLA-A*2402; PAPの3種類の合成ペプチドを抗原として選定し、8月25日にアフェレーシスによって回収した単核球中の付着細胞をGM-CSF,IL-4で刺激して樹状細胞を分化、誘導した。これに3種類の合成ペプチドをパルスした後、培養9日目にTNFα, PGE2で成熟化刺激して樹状細胞ワクチン(以下DCと略)を調製した。また、リンパ球は抗CD3抗体とIL-2存在下にて培養し、CD3-LAK(LAK)を得た。
治療方法
DC は投与日に1.0 ml の生理食塩水に浮遊させ、0.9 mlをそけい部に皮下投与、0.1 ml はDTH 反応に供した。同時にLAK の点滴を施行した。ホルモン療法は継続した。
経過
右季肋部痛に対して鎮痛剤を使用していたが、4回の治療終了後の2005年10月以降は不要となった。PSA値はDCおよびLAKを6回投与後に8.7まで低下した。DTH反応は1回目から徐々に反応が強くなり、4回目には強い膨隆と掻痒感を伴い33×40mmで中心部は17×20mmの強い発赤が1週間持続するに至った。治療後の患者末梢血中のPAP5特異的CTLをテトラマーアッセイにより測定したが、テトラマー陽性T細胞は検出されなかった。
その後、DCおよびLAKを4週毎に12回まで投与中に再度PSA値が上昇してきたため、3月6日よりビカルタミドからフルタミドに変更した上で、DCおよびLAKを2週毎に18回まで投与した。腰椎転移部のサイズを評価病変として、2005年12月14日対2006年9月11日のMRIによる評価で不変であった(Figure2)。第15、16回目のDC+LAKの投与開始5分後から全身に蕁麻疹を発現したが強ミノC静注点滴によって軽快し、第17回目以降には蕁麻疹は発現しなかった。肝機能検査値に異常なく原因不明であるが、内分泌療法の負荷もかかっており、何らかの即時型アレルギー反応と思われた。
結語
脊椎の圧迫骨折を伴う多発骨転移を有する前立腺癌に対し、DCおよびLAKとホルモン療法との併用により9ヶ月に渡って骨転移巣の拡大進展を抑制するとともに痛みと歩行の点でADLの改善に至った。免疫細胞療法をホルモン療法に併用することで効果の上乗せおよび、PSAの抑制期間延長につながる可能性が示された。本例ではDTH反応が強く誘導され、治療によって非特異的免疫応答が非常に効率よく誘導されていたものと考えられたが、
tetramerassayによりPAPを認識するCTLの増加を示すことはできなかった。