臨床症例報告No.25 (PDF版はこちら) 胸水貯留にて発見されたIV期卵巣癌に対し、化学療法・手術・免疫細胞療法を併用して完全寛解を得た後、周期的投与により2年間寛解を維持している症例
- 種類:卵巣
Introduction
遠隔転移を認める卵巣癌の治療には、現在タキサン系やプラチナ系を用いた全身化学療法が第一選択である。Neo-adjuvantとしてMonthly-TJ4クール後に胸水が消失したため、原発巣の完全摘出術が可能となり、術後、Monthly-TJ と樹状細胞ワクチンを用いた免疫細胞療法を併用して完全寛解を得た上で、更に周期的投与により2年間寛解を維持している症例を報告する。
Case
症例は51歳女性で、既往歴には特記すべき事項はない。平成15年12月より呼吸苦を訴え、翌1月に右側胸水貯留を指摘され、胸水3リットルを穿刺したところ、細胞診でクラスVの腺癌と診断された。CA125は7,792U/ml(正常値:35以下)で、PET・MRI・CTによる精査を行った結果、癌性胸膜炎を伴うIV期の卵巣癌と判明した。Taxol:175mg/m2及びCarboplatin:AUC=5でMonthly-TJによるNeo-adjuvant Chemotherapyを4クール終了したところで胸水はほぼ消失し、CA125は235まで低下、原発巣のPRを得られたため、根治手術を計画された。免疫細胞療法を併用した術後アジュバント治療を検討する為に、平成16年5月26日に当院を初診され、樹状細胞ワクチンの自己癌細胞抗原への利用を目的に手術摘出組織の一部を提供していただくことを主治医より了承された。平成16年6月1日に手術となり、腹式子宮全摘術、両側附属器摘出術、大網切除術ならびに低位前方切除術を施行された。原発部位は完全摘出手術となったが、なお右横隔膜下面に肉眼的残存を認めた。術後病理組織は漿液性乳頭状腺癌であった。原発巣の癌組織の一部を処理し
Lysateを作成、凍結保存した。平成16年6月30日から、再びTaxol:175mg/m2及びCarboplatin:AUC=5でMonthly-TJによる術後アジュバント化学療法を開始することとなったが、免疫細胞療法は抗癌剤の休薬期間に併用することとした。毎回抗癌剤投与日直前に45mlの静脈血採血を施行して単球を回収、GM-CSFとIL-4により樹状細胞を誘導し、6日目にLysateを添加し、7日目にTNF-αとPGE2による刺激で成熟化させたものを、9日目にCD3-LAKの培養中に添加してCTLの誘導を図り14日目にリンパ球を回収、100mlの生理食塩水浮遊液として点滴に供した(以下DC+LAK)。Monthly-TJ4回とDC+LAK6回を施行し、CA125は、(6/21)63→(7/21)29→(8/11)21→(9/21)13→(10/20)15→(1/14)5と正常化し、10月20日に胸腹部および骨盤腔CT上no evidence of diseaseの判定を得、また、12月9日にはPET-CT上、手術時残存した肝周囲部位を含め、異常集積を認めなかったことからCRの評価とした。その後も維持療法としてCD3-LAKを4週毎に6回追加したが、平成17年5月27日にはCA125が88と再上昇、PETでは横隔膜・肝境界と腹膜に異常集積を認めたため、6月16日と7月19日にTJを施行し、中間の休薬週にはDC+LAKを投与した。8月12日にはCA125が20に低下し、CT上PRを得た。その後は1ヶ月毎にCA125をモニタリングしながら、3ヶ月毎のCyclicchemotherapyとしてTJを追加し、中間の休薬週にはDC+LAKも投与することとした。
10月4日、翌1月17日、4月17日、7月11日とCyclicTJを施行し、中間にDC+LAKを併用したが、CA125は、(10/3)17→(1/13)41→(3/24)45→(4/28)28→(5/24)15→(6/21)91→(7/10)83→(9/6)60と推移し、平成18年9月6日のCT上は、右肺中葉に5mmの転移巣を認めた。術後の併用治療中を通してPSは0と良好に維持され、G-CSFは不要であり、副作用もTJ直後3日間程度の嘔気やだるさ程度で、Taxolによると思われる手足のしびれ感があるものの軽度であった。
Discussion
胸膜播種を認めるIV期卵巣癌に対して完全寛解まで持ち込めたことと、比較的軽度な副作用下に、十全大補湯やUFTといった補完療法も行なわずに、術後2年を越えて寛解を維持できていることは意義深いと思われる。TJへの感受性が良く、遠隔転移巣の制御ができ、原発巣の完全摘出が遂行できたことが有利な点であったと考えられる。毎回Cyclic TJの直前にはCA125がやや上昇を見せており、Chemical Recurrenceの時点で制御していることが示唆される。今後は抗癌剤の耐性出現が予測され、セカンドラインへの切り替えのタイミングに注意して、さらに経過を見ていくことになろう。