臨床症例報告No.22 (PDF版はこちら) 少線量放射線治療後に免疫細胞療法を併用しCRが得られた 悪性リンパ腫の1例
- 種類:血液
Introduction
一般的に免疫細胞療法単独で腫瘍縮小効果が得られる事は少なく、また併用するとしてもその有効性は併用群と標準的治療群のランダム化対照試験(RCT)を行った上で臨床的に検証する必要があるため、まだまだ当治療は普及的治療とは言い難い。しかし他の癌治療の有効性を引き出しつつその抗腫瘍効果を損なう事なく併用することで思わぬ好結果が得られる事があり、過去に我々は少量の分子標的薬(imatinib)との併用で骨転移縮小が見られた消化管間質腫瘍(GIST)も経験している。今回、結果的にではあるが少線量照射となったB細胞性悪性リンパ腫に対し免疫細胞療法を順次的に併用し、CRとなった症例を経験したので報告する。
Patient and present illness
80歳(2006/6/7)、男性。 既往歴:60歳時に緑内障、70歳時に膵炎。 初診時(1/23)身体所見:眼瞼がやや浮腫調。表在リンパ節腫脹なし。肝脾腫なし。右側下顎前歯部歯肉に潰瘍と生検による欠損と同部位の抜歯後の状態を認めた。呼吸音・心音異常なし。四肢浮腫なし。病歴:2005年12月上旬頃より右側下顎前歯部歯肉に小潰瘍出現し、同部の軽度自発痛を伴うため近医の歯科を受診。右下3,2 部唇側歯肉部に径2cm、周囲硬結(-)の潰瘍を認め、生検の結果はchronic necrotizing inflammationと診断されていたため消炎鎮痛剤および抗生剤の投与を受けていた。しかし、その後も次第に潰瘍部のサイズ増大を認め自発痛も増強してきたため、再度同部位の生検を施行。最終的にびまん性大細胞B 細胞型悪性リンパ腫(stage1E)と診断された。
Treatments and clinical course
高齢であったため、retuximab等の標準的治療は希望されず、またCT上腫瘍が骨破壊を伴う病変であったことより2006/1/31から局所放射線治療単独で治療が開始された。治療後、潰瘍面に大きな変化はなかったが、隆起した粘膜は明らかに治療効果が認められた。
しかしその後の照射は疼痛のため本人の希望にて中止され、僅か10Gyで照射終了となった。2/14その他の治療法選択肢としての免疫細胞療法を希望し当院へ紹介された。3/9からCD3-LAKの全身投与を約2週間に1回の間隔で開始した。5/31で1クール(計6回)が終了し、その後に効果判定のためのTとFDG-PETを行った。治療前のFDG-PETにて右下歯肉部に1時間最大SUV値:19.6と異常集積が認められていたが、治療後のFDG-PETでは同部位の異常集積は全く見られず、CTでも腫瘍性病変は完全消失した。
Conclusions
本症例は、骨破壊を伴う下顎部の悪性リンパ腫に対し放射線治療を先行して行ったが、僅か10Gyで終了したため最終目標線量には到達できなかった。しかしその少量放射線照射後に免疫細胞療法の順次的併用を行い、約3ヶ月後にはCRとなった。今回の症例においても、免疫細胞療法併用群と標準的治療群とのランダム化対照試験(RCT)での検証が必要であることは否めないが、結果的に現時点で完全寛解が得られている事は事実であるため、今回報告する事とした。今後も月1回のCD3-LAKを継続しつつ厳重な経過観察を行っていく予定である。
Discussion
Reits,E.A.らは、マウスの実験で放射線照射後、癌細胞内でMHC class1タンパクの発現更新が起こり、よりCTLが認識しやすくなると報告している。本症例でも少量放射線照射後に同様の機序で癌細胞内のMHC class1分子上への抗原提示が増加し、全身投与したLAK細胞の標的となりやすかったのではないかと考えられる。加藤らも少線量放射線療法と化学療法および免疫細胞療法を併用し、抗腫瘍効果が得られた症例を報告しており、放射線治療後の免疫療法はひとつの癌治療選択肢として十分検討する価値のある治療法ではないだろうか。
免疫細胞療法の抗腫瘍効果を効率良く引き出すためには、まず化学療法あるいは放射線治療などの有効的治療を先行して行い、癌細胞内での免疫寛容状態を可及的にlooseにしLAK細胞に対する感受性を高める事が重要と思われる。
当院ではさらに、標準的治療で治療抵抗性となった症例に対し、まず有効性の期待できる新規分子標的薬を先行投与し、順次的に免疫細胞療法を併用する治療法を新たな選択肢として提供している。