臨床症例報告No.21 (PDF版はこちら 高齢患者の再発進行期肺腺がんに対する免疫細胞療法(CD3-LAK)単独治療にて長期不変となった1例 瀬田クリニックグループ/新横浜メディカルクリニック  加藤 大基

  • 種類:肺

Introduction

肺がんは極めて難治度の高いがんであり、肺がん患者全体の5年生存率は10~15%と非常に厳しい。肺がん患者数は年々増加の一途をたどっており、死亡数は93年に男性で胃がんを抜き1位となり、98年には男女合計でも1位となっている。将来的には女性でも1位になることが予想されており、肺がんは予防・治療に最も力を入れなければいけない疾患のひとつとされている。
手術・化学療法・放射線治療を組み合わせた集学的な治療が行われているが、ごく初期を除いては満足できる治療成績は上げられていない。特に高齢者の場合は、いずれの適応にもならず、Best Supportive Careを勧められる場合も少なくない。

Case

症例は84歳男性。既往歴は肺気腫。喫煙歴は80本/日を約50年、初診時KPS=90%(軽度咳嗽)。
2002年11月8日、某がんセンターにて左下葉切除、1群リンパ節郭清術を施行、左S8原発の非小細胞肺がん、sT1N0M0,Stage IAの診断であった。高齢でもあり、術後補助療法は施行されず、外来にて経過観察されていた。
2005年3月30日のCEA=2.3ng/ml(<5.0)と基準値内。しかし、2005年6月に6.7ng/mlと軽度上昇を認め、以降は表のように上昇傾向が続いた。そのため某がんセンターにて2005年8月2日にCTを施行。縦隔・右肺門・右鎖骨上リンパ節転移を指摘された(Fig1)。83歳と高齢のため化学療法、放射線療法の適応とならず、ご本人の希望で2005年9月16日より丸山ワクチンを開始。9月28日瀬田クリニック初診。10月12日より2週間に1度のCD3-LAK療法開始となった。
治療開始時(10月12日)のCEAは40.3ng/mlであった(表)。 CD3-LAK開始よりCEAは徐々に低下傾向にあり、11月16日に 39.5、5回終了時の12月7日には33.4であった(表)。CT上は8月2日(Fig1)と12月15日(Fig2)を比較すると、リンパ節は増大傾向にあった。しかしCD3-LAK治療開始以降CEAの順調な低下が見られたこと、8月のCTからCD3-LAK開始まで2ヶ月以上あり、その間の無治療期間の増大を見ている可能性も考えられたため、2週間に1回の割合で2クール目を継続することにした。その後もCEA値は順調に低下していき、06年1月18日には5.9、3月13日には17.7となった(表)。3月13日のCT(Fig3)にて、12月(Fig2)と比して、右肺門リンパ節は不変、右鎖骨上リンパ節はわずかな縮小が見られた。順調な経過と考えられたため、4月以降は4~5週間毎のCD3-LAK投与にすることになった。丸山ワクチンは、注射後の熱感が苦痛であるとのことで4月12日にて中止。その後もCD3-LAK単独治療にてCEAの低下を認め、5月8日には11.8、6月7日には9.2となった(表)。6月12日のCT(Fig4)にて、05年12月(Fig2)と比して、右肺門リンパ節は不変、右鎖骨上リンパ節は縮小を認め、右内頚静脈圧排の改善が見られた。
2006年7月現在、無症状のままで4~5週に1回のCD3-LAKを継続中である。

Discussion

CT上増大傾向にあった再発肺がんに対して活性化自己リンパ球療法を行った結果、腫瘍マーカーの著明な低下及びCT上でのリンパ節転移の縮小を認めた症例を報告した。 この症例では、活性化自己リンパ球療法開始直前のCTが撮影されていなかったため正確な評価が困難であるが、少なくとも増大傾向にあったリンパ節が、活性化自己リンパ球療法を開始してから緩やかに縮小傾向に向かう様子が見られた。
活性化自己リンパ球療法では、この症例のように、半年以上の長期にわたって不変もしくは緩やかな縮小を見ることがある。従って、免疫療法に関しては、RECISTガイドライン以外の新たな治療効果判定基準の設定が必要となってくる可能性も考えられる。
活性化自己リンパ球療法が、再発肺がんに対して、QOLを損なうことなく腫瘍の増大を抑制する可能性が示唆された。

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