臨床症例報告No.15 (PDF版はこちら) 免疫細胞療法(DC-CTL療法)により肝転移の寛解をみたメラノーマ症例
- 種類:頭頚部
Introduction
悪性黒色腫(メラノーマ)は抗原性が高い腫瘍の1つと考えられており、以前から免疫学的に研究されてきた。また、1991年にBoonらにより初めて同定されたがん抗原(Melanoma antigen: MAGE)は、メラノーマの患者の体内に誘導されている細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の標的となるがん細胞上の抗原分子として同定された。そのような経緯からメラノーマは免疫細胞療法の良い対象疾患とされてきている。
近年、がん患者における生活の質(QOL)重視の考えから、治療による後遺障害をできるだけ軽減すべく、縮小手術が推進され、また、手術に比べて極めて侵襲が少なくかつ予後に差のない先進的な放射線療法が登場してきている。しかしながら、このような局所制御に優れた治療においても、その後の遠隔転移による再発には無力である。局所療法の後治療としても、QOL重視の考えからは副作用の軽微な治療が推進されるべきであろう。そのような観点から症例を提示する。
Case
症例は44歳の女性で鼻腔のメラノーマを診断され某大学病院で手術を勧められた。後遺障害から手術を辞退され当院を受診した。免疫細胞療法で根治を得ることは困難であることを説明し、重粒子線の適応について放射能医学研究所病院へ紹介した。その時点では遠隔転移も無く、適応があることから約三ヶ月にわたって重粒子線治療を行った。その後、遠隔転移再発するリスクが高いことから、全身療法として当院で免疫細胞療法を行った。免疫細胞療法としてはヒト白血球抗原(HLA)を調べたところ、HLA A2であった。メラノーマ抗原であるMAGE3のHLA A2上に、提示されるエピトープであるPeptideを合成、それをパルスした樹状細胞を作成した。この樹状細胞と末梢血単核球をexvivoで混合培養することで、CTLを誘導して活性化自己リンパ球療法を行った。 2000年2月より、2週間間隔で12回の治療を行い、その後は約4週間間隔で2002年7月まで、合計、31回の治療を行った。経過中、および治療開始時点より肝転移、皮膚、皮下転移が確認されたが、本治療経過中に肝転移、皮膚、皮下転移がそれぞれ消失している(図1)。 本症例は、一時、寛解した肝転移が23ヵ月後に再燃をきたすが、化学療法などを受けることなく良好なPSを維持し免疫細胞療法を開始から1039日間生存できた。
Discussion
免疫細胞療法は、化学療法に見られるような強い副作用が無く、局所療法である手術や放射線療法後に残存した微小癌の治療、つまり再発率の減少を目的とした補助療法としても適応が考えられる。術後の補助療法(Adjuvant Therapy)としては通常は化学療法が試みられているが、臨床試験で全生存率の上昇に対する貢献度が検証されていない場合が少なくなく、また、その副作用の強さからも、元々再発リスクの高くない患者群での使用についても問題視されがちである。免疫細胞療法での術後補助療法については過去、3つの無作為化試験が報告されており、肝細胞癌、肺癌、卵巣癌を対象に行われた。いずれの試験においても免疫細胞療法をAdjuvantとして術後に施行することで生存率あるいは無再発生存率の有意な増加が観察されている 1-3)。
今回のケースは鼻腔に原発したため、外科的な切除ではなく重粒子線治療を選択施行し、がんの局所制御には成功している。
しかしながら手術と同様に、重粒子線治療など先端的とはいえ放射線療法自体の限界はその後に生じる遠隔転移への対応である。本症例では再発、遠隔転移を抑えることはできなかったが、予後の不良なメラノーマの遠隔転移例としては、寛解と再発を繰り返しながらも比較的に長期に進行を抑え、生存期間の延長につながったものと思われた。