臨床症例報告No.9 (PDF版はこちら) 肺腺がんに対する単独の免疫細胞療法(CD3-LAK)による長期不変例
- 種類:肺
Introduction
肺がんの死亡数は1993年に胃がんを抜いて1位に、1998年には男女合わせても第1位になり今後も増加が予測される。特に進行例では血痰、咳嗽、胸痛のみでなく肺炎、無気肺、がん性胸膜炎、さらには腫瘍随伴症候群に伴う症状が発現する。
Case
症例は75歳男性で、家族歴は特記すべきことなく、50年間1日20本以上の喫煙歴あり。既往歴は1973年胃潰瘍にて3/4胃切除、2001年胆石にて手術、2002年前立腺肥大と膀胱憩室の診断を受けるも無治療。2003年3月に肺腺がん(T1N1M0)の診断を受けたが、肺気腫、間質性肺炎、肺高血圧症あり、手術、化学療法、 放射線療法の適応外とのことで当院を紹介された。
2003年3月27日に当院を初診された。貧血等はなく咳嗽と呼吸苦にてPSは1、摂食量は普段の6割程度で、CEA:9.0 ng/ml (<5.0)、シフラ:7.3 ng/ml (<2.0)であり、2週に1回のスケジュールで活性化自己リンパ球療法(CD3-LAK法)を開始した。
3月4日のCTでの右中葉の主病巣(26×18mm大)を評価病変とした。6月12日、CEA: 9.6 ng/ml、シフラ: 8.1 ng/mlで、6月19日のCT上は(28×20mm; +19.7%)でSDの評価であった。更に2週に1回のペースで12回目のCD3-LAKを投与された。
9月16日、CEA: 8.3 ng/ml、シフラ: 8.3 ng/mlで、9月24日のCT上は(27×20mm; +15.4%)でSDの評価であり、Long SDと判定した。治療期間中のQOLについては、咳嗽と血痰、呼吸苦の症状はやや緩和し、PSは1、摂食量は普段の6割程度に保たれた。更に1ヶ月に1回のペースで12月10日、14回目までCD3-LAK投与を継続した。
12月10日、CEA: 10.8 ng/ml、シフラ: 5.2 ng/mlであった。
その後は、セカンドオピニオンを受け、PET・CT・MRI上、他臓器への転移なくあらためてStage IIIbと診断され、重粒子線治療へ移行するため、当治療を終了した。
Discussion
肺がんの治療方法として、手術・化学療法・放射線療法の適応とならない進行症例に対しては、従来積極的な治療のなされないことがほと んどであった。一部の緩和ケア病棟やホスピスへの管理入院にあたっては、「一切の治療を行なわない」という誓約を要することもあると聞いている。
根治や縮小を目指せないまでもある程度腫瘍の進行を抑制することが可能であれば、日常生活や延命効果の観点からも患者へのメリットは大きい。この症例のように、他の持病で頻回に医療機関を受診し治療観察中であったにもかかわらず、26×18mm の肺がんとして発見された腫瘍進行スピードからすれば、CD3-LAK療法中に6ヶ月間腫瘍の拡大を抑え、さらに重粒子線治療という局所制御の道が開けたことの意義は大きいと考えられる。
他療法との併用の可能性を検討しつつ、CD3-LAK療法の施行頻度と継続期間をいかに設定しながら、腫瘍抑制とQOLの維持を達成していくかが今後の課題である。