臨床症例報告No.4 (PDF版はこちら) 免疫細胞療法(CD3-LAK)により十分な腫瘍縮小効果が得られた肝細胞がん再発症例
- 種類:肝臓
Introduction
近年、肝臓外科の進歩に伴い肝細胞がんに対する手術の安全性が高まり、術後の5年生存率は54.6%と報告されているが、術後再発率は依然として高く、Yamamotoらは386人中56.7%が再発したと報告している。
そこで、いかに術後再発を防ぐかが重要と思われるが、現在肝細胞がん術後のadjuvant として有効な治療法はなく、再発時にPEITやRFA等の局所療法もしくはTACE等の動注療法を行っているのが現状である。
これまでadoptive immunotherapy が肝細胞がん術後の再発防止に有用だったとする報告はあるが、肝細胞がん再発例に対する免疫細胞療法著効例の報告は少ない。
今回、我々は初回手術より約10年を経過し再発した肝細胞がん症例に対し免疫細胞療法(CD3-LAK)と肝動注化学療法の併用を計画し、約3ヶ月間で約80%の腫瘍縮小率が得られたので報告する。
Patient and present illness
82歳(5/21/2003)、男性でHCV抗体陽性であった。1993年に肝(S8)の肝細胞がんに対し肝亜区域切除術が施行されていたが、その時の病理学的診断はmoderately diff. hepatocellular ca. and liver cirrhosis であった。
初発から10年経過した05/21/2003 、腹部USにて肝(S5)に72×71mmの再発性腫瘤を認めた。腹部CT(Fig 1)では、肝(S5)に外方性に発育する内部不均一な腫瘍として認められた。腫瘍マーカーはAFP: 5100 ng/ml、PIVKA-Ⅱ:136 mAU/mlと上昇していたため、肝細胞がんの再発と診断した。
Treatments and clinical course
我々は、免疫細胞療法と肝動注化学療法の併用療法を計画し、6/20/2003に第1回目のCD3-LAKの経静脈的投与を施行した。5日後の 6/25に肝血管造影を施行したが、vascularity に乏しくSMANCSの集積は期待できなかったため、エピルビシン50mgとMMC 10mgのみone shot 動注した。
Fig 2はその際に施行したangio-CTであるが、径約70mmあった腫瘍は唯一1回のCD3-LAKで既に径45×45mmと縮小していた。治療前腫瘍全体が不均一に造影されていたが、angio-CT では島状に取り残された部分のみ強く造影され、その周囲はlow densityとなっていた。その後はCD3-LAK単独とし計6回治療を行った。
Fig 3は4回LAK後(8/11/2003)のCT画像だが、径約30mmとわずか3ヶ月足らずで劇的に腫瘍縮小し、島状に取り残されたviable な箇所を残し、そのほとんどが壊死に陥ったものと思われる。
治療開始110日後の10/8には、AFP: 14.6 ng/ml、PIVKA-Ⅱ:14 mAU/mlと腫瘍マーカーも正常化した。Clinical course は腫瘍マーカーの推移を示したものである。
9/12/2003に6回目のCD3-LAKを終了し、その後は無治療で経過を観察した。Fig 4はその後のCT画像(11/5/2003)であるが、腫瘍は更に縮小傾向を示し、島状の部分も縮小していた。またその後、2005年6月3日現在まで、腫瘍マーカーの再上昇は見られていない。
Discussion
Dudleyらは、骨髄破壊のない化学療法後に免疫細胞療法を施行し、それを繰り返す事で生体内の抗腫瘍免疫が誘導成立する可能性が十分にあると報告しているが、本症例においてもCD3-LAKで縮小した腫瘍に追い打ちをかけるがごとく、動注化学療法を施行しその後のCD3-LAKの継続により更なる腫瘍縮小および再発抑制が得られたものと考えられる。
また、免疫細胞の標的となり得るべく腫瘍の免疫原生が十分保たれtoleranceがlooseだった事も要因ではなかったかと思われる。
Conclusion
免疫細胞療法は、今後tumor dormancy therapyに大きく寄与する治療法ではあるが、まだまだ基礎的研究および臨床的改良の余地のある治療法である。本症例のように治療が著効した症例において、腫瘍の特性及びtoleranceの程度を解析し、無効例との相違点を検討していく必要があると思われる。臨床的には、活性化リンパ球の腫瘍血管への動注療法や、腫瘍内への局所投与を積極的に施行していかなければいけないと考えている。