臨床症例報告No.2 (PDF版はこちら) 免疫細胞療法(CD3-LAK法)による再発膵がんの長期寛解例
- 種類:すい臓
Introduction
膵がんは最も難治性の高いがんの一つであり、手術が行われても術後早期に再発、転移する症例が多い 1)。5年生存率は、手術施行症例では9.7%、切除不能症例においてはほぼ0%で報告されている 2)。肝転移は特に予後不良の因子の1つであり、現在、ゲムシタビンを用いた化学療法が、治療の第1選択として位置付けられているが、その奏効率、奏効期間は非常に限られている。
今回、活性化自己リンパ球療法により長期の寛解を得られた症例について報告する。
Case
症例は59歳男性で、既往歴としては1998年より糖尿病と診断されインスリンによる治療を受けていた。経過中、血糖値の上昇とともにCEAの上昇を認め、精査したところ、膵体尾部がんと診断され、 2003年4月10日、某医学部付属病院にて手術(膵全摘術、門脈合併切除術、胆管切除術、胆嚢切除術、胃空腸吻合、胆管空腸吻合術) が施行された。
術後、5-FU 250mg/day、28日間施行、6月12日退院となった。
退院前の6月6日に当院を初診したが、PSは1、摂食は不良、血液検査所見ではGOT 150 IU/l、GPT 123 IU/lと肝機能異常を認め、腫瘍マーカはCEA 4.7ng/ml、CA19-9 15U/mlと正常値となっていた。
退院後、さらに化学療法を追加予定であったが、肝機能異常を認めたことから延期された。6月23日より約2週間間隔で免疫細胞療法を開始した。6月27日の腹部CTで肝転移が疑われ、7月7日の腫瘍マーカはCEA 8.9ng/ml、CA19-9 36U/mlと軽度上昇がみられたため、7月23日にはゲムシタビン1000mgが投与された。しかし、8月4日に白血球1700/μlと骨髄抑制が顕著で、嘔気などの副作用も強く、化学療法は1回の投与で以後、中止となった。
7月24日に施行した腹部CTでは、肝に直径10mm以下の多発性の転移巣が観察され(Figure 1)、肝転移再発と診断された。
8月26日のCTでは肝転移巣はStable disease であったが、腫瘍マーカは明らかな上昇がみられた。
活性化自己リンパ球療法単独での治療を継続したところ、腫瘍マーカは上昇がとまり、10月29日のCTでは肝転移巣は観察されなくなった(Figure 2)。
その後、活性化自己リンパ球療法を2~3週間間隔で施行しているが、現在(2005年5月)まで、腫瘍マーカの上昇は抑えられ、定期的に施行される腹部CTの検査でも肝転移の再燃はみられていない (Figure 3)。
Discussion
膵がんに対する活性化自己リンパ球療法の効果に関してはこれまでいくつかの報告がみられる 3-7)。われわれの膵がんの治療成績に関する少数例でのpreliminaryな検討によれば、活性化自己リンパ球療法単独での治療例13例中、2例にPRを観察し、3例に6ヶ月間以上の長期不変を観察している 5) 。また、3期あるいは4期の膵がん患者を対象として、治癒切除及び放射線療法3日後にInterleukin-2 (IL-2)と共にLymphokine-activated killer (LAK)を門脈より投与した臨床試験においては、LAK、IL-2の免疫療法及び 5-FU併用群の肝転移率及び局所再発率は5-FU単独群に比して有意に低く、3年生存率は36%であった(5-FU単独群では0%と報告されている 6) )。
今後、さらに発展させた免疫細胞療法を用いることで、より高い治療効果を得る可能性があり、最近、われわれは切除不能進行膵がんにおいて、超音波内視鏡を用いた未熟樹状細胞の病巣局所への投与と、活性化自己リンパ球の全身投与を組み合わせた治療についての臨床試験をスタートさせた。