前立腺がんに対する免疫細胞治療の症例紹介
瀬田クリニックグループでがん免疫療法(免疫細胞治療)を受けられた前立腺がんの方の症例(治療例)を紹介します。症例は治療前後のCT画像や腫瘍マーカーの記録など客観的データに基づき記載しています。
前立腺がんの症例
症例①64歳 男性樹状細胞ワクチンとアルファ・ベータT細胞療法とホルモン療法の併用で長期不変と生活の質改善が見られた例(多発骨転移のある前立腺がんⅣ期)
治療までの経緯
2004年9月に前立腺癌と診断され(PSA値152(ng/ml))、同年12月の骨シンチグラムとMRI検査で胸椎・腰椎・仙骨・肋骨に計12箇所の多発骨転移を指摘されました。ホルモン療法(酢酸リュープロレリン、インカドロン酸二ナトリウム、ビカルタミド)が開始され、2005年6月にはPSA値が14.8まで低下しましたが、7月以降に再上昇してきたため、免疫細胞治療の併用を希望し2005年8月2日に当院を受診されました。9月5日のPSA値は17.2と上昇傾向で、腰椎圧迫骨折により杖歩行の状態でした。
治療内容と経過
ホルモン療法を続けながら、ペプチド感作樹状細胞ワクチンとアルファ・ベータT細胞療法を行うことになりました。樹状細胞ワクチンの抗原には、前立腺がんに特に有効とされるPAPのペプチドを使用しました。来院当初は転移によると思われる右上腹の痛みに対して鎮痛剤を使用していましたが、4回目の治療終了後の2005年10月以降は鎮痛剤が要らなくなりました。また、この頃にはワクチンによる免疫反応の誘導を示す皮膚反応が強く出現しました。PSA値は6回目の治療後に8.7まで低下しました。その後、樹状細胞ワクチンとアルファ・ベータT細胞療法を4週毎に治療を続けていたところ、再びPSA値が上昇してきたため、ホルモン療法剤をビカルタミドからフルタミドに変更して、樹状細胞ワクチンとアルファ・ベータT細胞療法を2週毎に18回まで続けました。腰椎の転移部分のMRIを見てみると、2005年12月14日と2006年9月11日で病変の大きさに変化はなく、安定していると評価されました。
考察
免疫細胞治療を開始した時には、脊椎の圧迫骨折を伴う多発骨転移のあるStageⅣの前立腺がんの患者さんが、樹状細胞ワクチン、アルファ・ベータT細胞療法とホルモン療法の併用で9カ月に渡って骨転移巣の拡大進展を抑えられたと同時に、痛みと歩行の点で生活の質の改善が顕著に見られました。免疫細胞療法をホルモン療法に併用することで、効果の上乗せとPSAの抑制期間延長につながる可能性が示されました。
症例②68歳 男性抗がん剤、及びホルモン療法が無効であった進行前立腺がんに対して、免疫細胞治療を併用して著効した一例
治療までの経緯
2006年1月に前立腺の一部を切り取り、顕微鏡で観察する病理検査を実施したところ(PSA値は138 ng/mL)、がんの悪性度(グレーソンスコア:最大10)は9で、非常に悪性度が高く、画像検査では上腕部の骨、及び大動脈のリンパ節への転移がみられ、ステージD2と診断されました。
治療内容と経過
ホルモン療法を開始したところ一時的にPSA値は低下しましたが、2009年1月より再度上昇が認められた為、ホルモン療法抵抗性の前立腺がんと診断されました。同年4月に抗がん剤を開始しましたが、同年10月ごろよりPSA値の再上昇が認められ、他の抗がん剤に変更するも更にPSA値が上昇した為、上乗せ効果を期待して免疫細胞治療を併用しました。
同年7月より骨転移のある症例に対する効果を期待して免疫細胞治療(ガンマ・デルタT細胞療法)を3回行いましたが、その後、細胞の増殖が悪くなったため、アルファ・ベータT細胞療法を2週間隔で実施しました。免疫細胞治療前まで上昇傾向にあったPSA値(14.09 ng/mL)は、ガンマ・デルタT細胞療法実施後に3.62 ng/mLまで低下し、その後のアルファ・ベータT細胞療法実施後も下がり続け、2011年3月時点で正常値となりました。
またPSA値の低下に伴って、全身倦怠感や上腕の痛みも消失しました。
考察
PSA検査の普及により、前立腺がんの罹患率は年々高くなっています。他のがん種に比べ、早期前立腺がんの予後は比較的良いとされていますが、特にホルモン療法が無効である進行前立腺がんの予後は不良と言われております。本症例はホルモン療法と抗がん剤治療では限定的であった効果が、免疫細胞治療を併用することによる相乗効果で、PSA値の劇的な改善に伴って全身倦怠感や上腕部の痛みの消失が認められました。その後2年以上にわたり、全身状態が良好に維持されています。
本症例においては、骨転移のため、ガンマ・デルタT細胞療法を開始、病状は軽快、その後、患者さんより得たガンマ・デルタT細胞の増殖能力が徐々に低下したため、アルファ・ベータT細胞療法へ切り替えました。このように、患者さん個々の病態に合わせた治療を選択して実施可能であることが、個別化医療において大変重要なことと言えます。